シリコンバレー支局があるカリフォルニア州では、暖かくなってきたことやワクチン接種が始まったことなどから、新型コロナウイルスの感染者数は徐々に落ち着いてきています。ただ、屋外を中心に飲食店での食事が解禁されたことで、1カ月後くらいに再び急増するのではないかと個人的には懸念しています……。そうなれば飲食店をはじめとする屋内施設の利用に制限が課せられるでしょう。米国ではこうした行ったり来たりを繰り返しながら、ワクチン接種を並行して進めることで、経済を回しながら徐々に新型コロナの感染を収束させようとしています。
 こうした状況を鑑みると、米国では仕事もプライベートもあと1~2年くらいは在宅が主になると個人的に考えています。そうなると、AR(Augmented Reality)やMR(Mixed Reality)、そしてVR(Virtual Reality)といった「XR」技術が活躍する機会がしばらく続くでしょう。ARやMRであれば現実空間に情報や3次元(3D)のコンピューターグラフィックス(CG)などを重ねて表示し、遠隔から人と接することなく作業を支援できます。VRであれば、3D CGで構築された仮想空間内で仕事や学習、コミュニケーションなどを行えます。いずれも、職場や学校などに集まらなくても、作業効率を向上させるのにうってつけの技術です。
 そんな中、米マイクロソフトは先週、新しいクラウド型のMRプラットフォーム「Microsoft Mesh(メッシュ)」を発表しました。実物と仮想物体を重畳して表示した空間上で、離れた場所にいる複数の人との共同作業やコミュニケーションなどを行うMRアプリの構築を促すのが狙いです。
 これまでマイクロソフトは、MR用ヘッドマウントディスプレー(HMD)「ホロレンズ」シリーズを手掛けてきたほか、MRに向けた各種サービスを提供してきました。メッシュを通じてマイクロソフトが顧客に提供する機能を見ると、ベータ版を含めて、これまで同社が提供してきたMR向けサービスやMRアプリの開発環境などを統合させた構成になっています。つまり、メッシュという分かりやすいブランド名を付けて、MRサービスを本格的に展開していくというマイクロソフトの宣言です。メッシュは、マイクロソフトの大型イベント「Ignite(イグナイト)」のオンライン基調講演という華々しい場で発表されました。サティア・ナデラCEO(最高経営責任者)が冒頭に登壇した後、ホロレンズの生みの親として知られるアレックス・キップマン氏が登壇。基調講演の多くの時間を割いて、同氏がメッシュやホロレンズ 2をはじめとするMRの取り組みや可能性について話しました。
 キップマン氏が語るMRの浸透ぶりは目を見張るものがあります。同氏によれば、製造業や小売り、ヘルスケア業界において、500人超の従業員を抱える企業の90%超が何らかの形でMRを利用したり試用したりしているそうです。加えて、「フォーチュン500」の有力企業の50%以上がホロレンズ2を購入済み。独ダイムラーの「メルセデス・ベンツ」や米インテル、欧州エアバス、仏化粧品大手ロレアルなどを例に挙げました。日本ではトヨタ自動車の導入事例をアピールしました。
 マイクロソフトはMRの普及に弾みをつけるために、メッシュでは、サードパーティーの開発者向けにSDK(ソフトウエア開発キット)などの開発環境を充実させました。もちろん、自社アプリのMR対応も進めます。ホロレンズ2向け「Microsoft Mesh App」のプレビュー版の提供を始めたほか、同社ソーシャルVRサービス基盤「AltspaceVR」をメッシュに対応させました。今後、企業向けサービスの「Microsoft Teams」や「Microsoft Dynamics 365」もメッシュに対応させる予定です。
 マルチデバイスにも対応。ホロレンズ2やWindows搭載パソコンに加えて、米フェイスブックのVR用HMD「Oculus Quest 2」、米アップルのパソコン「Mac」、スマートフォン、タブレット端末といった広範な機器がメッシュに対応するそうです。
 もっとも、MRアプリの良さを最も生かせるMR用HMDは進化したとはいえ、パソコン並みに広く浸透するには、まだ高価で大き過ぎます。そのためマイクロソフトは、これから10年以上かけて、MR市場を開拓し続けるのではないか、と筆者は考えます。
 参考になるのはXbox事業です。任天堂やソニーといった強力なライバルが存在する中、参入からおよそ20年の風雪に耐えて、ゲーム機メーカー3強の一角を占めるようになりました。21年1月に発表した20年10~12月期決算では、ゲーム事業の売上高が前年同期比で約50%増えて、四半期単独で初めて50億米ドルを上回りました。ゲーム機のXboxは当初、本体サイズは大きく、その上、大きなAC電源が外付けで、日本など住宅が狭い地域のユーザーから不評でした。それも今は昔。20年11月に発売した「Xbox Series X」は、AC電源を内蔵しながら、同時期発売のライバル「プレイステーション5」よりも小さくしました。
 加えて、月額課金のゲーム配信サービス「Game Pass」も好調です。Xboxシリーズのゲーム機やWindowsパソコンだけでなく、スマートフォンやタブレット端末でもプレーできるマルチデバイス対応です。その結果、契約者が順調に伸びており、既に1800万人に達しています。
 専用ハードウエアと自社ソフト(アプリ)で事業を開拓しながら、サードパーティーのアプリやデバイスを利用可能にして事業を成長させる。そんなXbox事業で成功した「20年の計」を、MR事業でも展開しようとしてもおかしくありません。
(シリコンバレー支局 根津禎)