シリコンバレー支局の根津です。支局長の市嶋と共に、1週間のグローバルダイジェストや取材の中から、主に注目すべき米国のテック企業の動向やホットトピックをお届けしたいと思います。
 落ち着いてきたとはいえ、米国はいまだコロナ禍の真っただ中にあります。店に買い物に行くのは以前より面倒になり、ネット通販の利用が増えました。中でも米アマゾン・ドット・コムのEC(電子商取引)サービスがひときわ便利です。実際に米国に住んでいると、もはや「社会インフラ」と言えるほど依存するようになりました。
 そんなアマゾンはEC強化策を継続的に打ち出しています。先週、同社がEC構築プラットフォームを手掛けるオーストラリアのセルズ(Selz)を買収したと米メディアが報じました。この買収は、成長中の競合カナダ・ショッピファイへの対抗策と目されています。
 アマゾンが参入すると、その業界を「破壊(ディスラプト)」するのではないかと、話題になります。2020年12月から21年2月まででアマゾンが発表した新サービスで、今後大きく成長するのではないかとみている3つを紹介します。
 1番目は、製造現場や食品加工工場、物流センターなどに向けた新しい機械学習サービスです。クラウド子会社の米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)が20年12月に発表しました。目的は、産業機器の異常検知や予兆保全、製造現場や作業現場などでのコンピュータービジョン(CV)の導入を容易にすることです。いわゆる「インダストリー 4.0」で求められる機能です。数年前から注目されている分野ですが、期待されたほど浸透していません。その一因は、製造現場ではクラウドや機械学習に明るい技術者が限られており、ハードルが高いことがあります。
 AWSの製造分野向けのサービスは、この敷居を下げました。例えば、異常検知であれば、機械学習の経験がほぼ皆無でも導入できます。その上、小型センサーやセンサーから取得したデータをクラウドに送るゲートウエイといったハードウエアまで準備しました。CVは、既存のカメラに専用端末を接続するだけで利用可能になります。この敷居の低さは、製造現場にとって魅力的に映るでしょう。もちろん、機械学習に詳しいユーザーであれば、所望のシステムを構築できる拡張性も備えています。まさに「かゆい所に手が届く」サービスだけに、競合には脅威です。
 2番目はスポーツ分野。21年2月11日、ドイツのプロサッカーリーグ「ブンデスリーガ」に向けた統計・分析サービス基盤「Bundesliga Match Facts」に新たな機能を追加することを明らかにしました。同基盤では、AWSの機械学習や分析、データベース、ストレージなどの技術を利用して、カメラで撮影された試合や選手の状況を把握。その結果を表示することで、チームが戦術の構築に生かしたり、テレビなどで観戦するファンが見て楽しめるようにしたりするのが目的です。
 追加された新機能として、例えば試合中の選手に対する、相手チームからのプレス(プレッシャー)具合を定量化して表示するものがあります。ボールを持った選手にかけられたプレス具合を、相手選手の数や距離、向きなどから算出するそうです。こうしたスポーツ向けサービスは業務用カメラ大手やスタートアップ企業が注力してきた分野です。ソニーやパナソニックといった日本企業は業務用カメラで強みを発揮しており、事業拡大を狙っています。AWSはそんな企業のライバルになっています。
 3番目は、21年2月17日にアマゾンが開始したクラウドファンディング型の電子機器販売サービス「Build It」です。同社サイト上で新製品を発表して事前注文を受け付け、30日以内に注文が目標に達すればリリースする仕組みです。
 狙いは大きく2つあると思われます。1つは、アマゾンが「ハードウエアスタートアップ」として、事業失敗のリスクを軽減しつつ、早期に製品化するためです。これまで同社は、電子レンジのような従来型の機器から、スマートスピーカーやウエアラブル端末といった新しいカテゴリーの機器までを自社ブランドで幅広く製品化してきました。しかしながら、それらすべてがヒットしたわけではなく、結果が芳しくないものもありました。特に、斬新な機器ほど、当たり外れが生じやすい。そこで同社はこれまで、一部の新しい機器を正式にリリースする前に招待制で販売し、一定期間が経過した後に一般販売してきました。
 この方法でも、一般販売前に需要があるかどうかを見極めることができますが、時間がかかる上に、失敗のリスクがある。例えば、メガネ型端末「Echo Frames」は、19年9月に発表して、20年11月に一般販売を始めて12月に出荷されました。つまり、1年もの間、試験販売だったわけです。
 もう1つの理由は、アマゾンにとって親和性がある、スケールアップが可能な事業モデルを構築できること。現時点で明言していないものの、いずれ他社もBuild Itを利用できるようになる可能性があります。まず自社で利用し、いずれ他社に開放して事業拡大する。そんなAWSと同じ事業モデルを描いていても不思議ではありません。
 ハードウエアの開発・製造の経験が浅い新興企業にとっても、アマゾンと組む利点は多いでしょう。販売チャネルや宣伝ルートもある上、自社ハードウエアを手掛けてきたことから、EMS(電子機器の受託製造サービス)企業や設計から生産まで一貫して手掛けるODM(相手先ブランドによる設計・製造)企業との付き合いもある。すなわち、ハードウエア製品の実用化に向けた「ターンキーソリューション」を展開できます。ですから、さまざまな企業が利用し、クラウドファンディングサービスとして急成長する潜在力があります。
 今回取り上げたサービスは、あくまでアマゾンが手掛ける事業のごく一部。それでも、各分野のプレーヤーにとって、脅威であることには間違いありません。
(シリコンバレー支局 根津禎)

(写真:AFP/アフロ)