シリコンバレー支局の市嶋です。今回からシリコンバレー支局からも1週間のグローバルダイジェストや取材の中から、シリコンバレーや米国で今何が話題になっていて、何を知っておくべきかをお伝えしたいと思います。
 先週のニュースで大きく取り上げられていたのが、米電気自動車(EV)大手のテスラが暗号資産(仮想通貨)の1種であるビットコインに15億ドル(約1560億円)もの投資をしたことです。ビットコインの相場が跳ね上がり過去最高を記録し、この戦略を好感したのかテスラ株も上昇しました。
 イーロン・マスクCEO(最高経営責任者)は何を考えてビットコインに資金を投じたのでしょうか。大きく2つのことが思い浮かびます。
 まず分かりやすいのは、開示資料でも明らかにしているのですが、テスラ車のビットコインによる販売です。最も価格が安価な「Model 3」に自動運転のオプションを付けると4万6490ドルです。原稿執筆時点(2月15日)では1BTC(ビットコインの単位)が4万8531ドルなので、ほぼ1BTCとなります。全世界で統一価格にもできます。
 ただ問題があります。ビットコインの価値が1年で数倍になったり、1日で1割程度変化したりすることです。ある日、テスラのホームページに、「4万6490ドル or 1BTC」と表示していたとして、翌日にビットコインが値上がりした際に、どう扱うのでしょうか。
 ビットコインが対米ドルで1割値上がりしてもModel3が1BTCのままであれば、顧客は米ドルに変換したほうがいいでしょう。日本円で50万円ぐらい得をします。おそらくこうした面倒なことにならないように、「0.9BTC」というように連動させるのではないでしょうか。
 しかしクルマの価格がそこまで乱高下して「時価」になるのも面倒でしょう。と考えると「1BTC」のまま販売し、50万円分を大容量バッテリーなどのオプションで提供するなどの対応をするのではないでしょうか。自動運転のオプションであれば約100万円のソフトウエアであり、コストはほぼかかりません。
 逆にビットコインが値下がりしても、その分を顧客からテスラ側に返す何かしらのオプションを考えるのではないでしょうか。例えば、マスクCEOは今後、テスラ車で完全自動運転を実現した際には、自分のクルマを知り合いなどにアプリから貸し出せるようにするシェアリングサービスを提供すると説明しています。50万円分の「貸し」をこのシェアリングへの提供で返すということも考えられるのではないでしょうか。当然、このシェアリングサービスもビットコインで利用できるようになるでしょう。
 マスクCEOはEVを普及させるなど、地球環境問題に積極的に取り組んでいます。ビットコインにもそうした考えを持ち込んでくる可能性がありそうです。これが2つ目です。ビットコインは高性能なコンピューターによって課題を解くことで、金のように新たに「採掘」できます。ただものすごい電力が消費され、発熱や二酸化炭素の排出にもつながります。マスクCEOはこうした課題を解決する何かを思いついているのかもしれません。
 例えば、自宅に駐車中の顧客のテスラ車をネットワークでつないで、その高性能な半導体で計算し、採掘の成果に応じて顧客にビットコインで支払うのではないでしょうか。テスラはソーラーパネルも扱っており、導入した顧客から採掘用の電力を購入するかもしれません。そうすればクリーンなエネルギーで採掘できます。
 実はテスラが20年に利益を計上できたのは、環境対応によるものがあります。米国の州によっては、排ガスのゼロエミッション規制を達成できない自動車メーカーは「規制クレジット(温暖化排出枠)」を購入する必要があります。その販売元がテスラなのです。20年度の決算資料によるとその額が15億8000万米ドルと、純利益の7億2100万米ドルを上回っています。つまり規制クレジットがなければまだ赤字だった可能性が高いのです。
 各社がEV対応すればテスラが受け取る規制クレジットは減っていきます。偶然なのか今回購入したビットコインと規制クレジットの額がほぼ同じです。いずれにしてもマスクCEOはビットコインで独自の経済圏を作ることで、同社にしか実現できない金脈を思いついたのでしょう。
(シリコンバレー支局 市嶋洋平)