5月末、北京のコンビニエンスストアで炭酸飲料を買おうとしたときのことです。デジタル人民元のロゴマークがレジに張ってありました。最近、デジタル人民元を利用できるようになった中国人の知人に代わりに支払ってくれるよう頼み、店員にその旨を告げるとにわかに動きが慌ただしくなりました。「店長しかやり方が分からない」とのこと。しばらく待つとスマホを片手に女性店長が現れました。
 「デジタル人民元での支払いは初めてなの。ちょっと待って」と言いながら、スマホ画面の動画マニュアルと格闘すること5分ほど。やっとQRコードをかざして支払うことができるようになりました。
 一旦利用できるようになった後の支払い手順や使い勝手は、支付宝「(アリペイ)」や「微信支付(ウィーチャットペイ)」と同じ。人民元アプリのオペレーションのもたつきは早晩解消されるでしょう。中国政府が強権的な手段を取らないのであれば、ユーザーにとっての利便性をいかに高められるかがアリペイやウィーチャットペイとのシェア争いの鍵になりそうです。
 昨年から実証実験が行われているデジタル人民元。今も実験段階にあることは変わりませんが、国有銀行などに口座を持つ多くの中国人が利用できるようになり、利用可能な場面も徐々に増えてきました。
 その特徴は現金のようにオフラインでも金銭のやりとりが可能なことにあります。スマートフォンの財布(ウォレット)アプリに銀行口座からお金を移しておけば、ネット環境がないところでも支払いが可能。ユーザー同士のオフラインでの受け渡しもできます。もっとも、今や中国でもほとんどの場所で携帯電話のネット環境が整備されているため、その優位性を発揮できる局面がどれだけあるかは疑問符が付きます。
 中国メディアの第一財経は中国人民銀行デジタル通貨研究所の前所長である姚前氏が5月30日、金融イベントで「政府がすべての取引をリアルタイムで確認することは意図していない」と説明したと伝えています。清華大学経済管理学院金融系主任の何平氏は同イベントで、デジタル人民元による通貨の国際化にも否定的な意見を述べています。いずれも、従来の中国政府の見解をなぞった発言です。
 中国政府は消費者へのメリットを打ち出しますが、アリペイやウィーチャットペイに対する優位は限定的と言わざるを得ません。それでいながら監視目的でもなく、人民元の国際化にすぐにつながるものでもないと言います。これだけの大規模な実証実験を行っていることを考えれば、このような中国政府の説明をうのみにすることは難しいでしょう。
 中央銀行が発行する通貨において、デジタル化は大きな潮流であることは疑いのない事実です。いち早く完成度の高い「CBDC(中央銀行デジタル通貨)」を実現すれば、直接的、間接的に中国の国力向上につながることになります。人民元は中国経済の成長と急速なデジタル化によって、国際通貨取引で大きな存在感を持つドル、円、ユーロにひたひたと迫っています。

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