「ブレーキが利かない」。こう書かれたTシャツを着た女性がクルマの天井に飛び乗り、米テスラに抗議する姿が中国のソーシャルメディア上で拡散しました。
 4月19日、上海国際自動車ショー(上海モーターショー)の初日、米テスラブースで起きた出来事です。当初は強気の姿勢だったテスラですが、中国国営の新華社や中国共産党系メディアから批判を浴びると「謝罪モード」へと転じます。この女性は今年初めに衝突事故を起こしたテスラ車の所有者でした。テスラは事故の原因を「スピード違反」と主張し、女性と対応について交渉していたと言いますが女性は納得しておらず今回の行動に及びました。中国当局は事故前の映像を提出するようにテスラに要求し、テスラはこれに応じました。
 テスラは2019年12月に上海市内で工場を稼働するなど、イーロン・マスクCEOは中国市場へのコミットを繰り返してきました。同社の電気自動車(EV)は中国市場でナンバーワンの地位を確立しており、中国人にとっても憧れの海外ブランドの1つでした。
 ところが、このところ中国で愛されてきた同社への風当たりがにわかに強まっています。昨年は中国向けのクルマの半導体が型落ち品なのではないかと批判されました。今年3月には中国の人民解放軍が車載カメラやセンサーから軍事機密が漏れる懸念があるとしてテスラ車の利用を禁止したと報道されています。テスラCEOのイーロン・マスク氏は「もしテスラが中国であれどこであれ、スパイ活動のために車両を使っていれば、工場は閉鎖されてしまう」と疑惑を否定しています。
 中国メーカーのEVの品質が上がってきて、テスラと並ぶ選択肢になってきたことも影響しているかもしれません。中国国内で最近、国産ブランドがブームであることを示す「国潮」という言葉が広がっています。米中の対立が深刻化していることに加え、中国の国産ブランドの品質が向上しデザインが洗練されてきました。他国に先駆けて新型コロナウイルスの封じ込めに成功したことも、中国国民の自信を深めています。満足できる商品が手に入るなら国内ブランドの方がよいと考える人が増える中、中国人が海外ブランドを見る目は厳しさを増しています。
(上海支局長 広岡延隆)

(写真:VCG/Getty Images)