「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す。日米両国は、香港及び新疆ウイグル自治区における人権状況への深刻な懸念を共有する」
 菅義偉首相とバイデン米大統領が初めて会談した後で発表された、共同声明の中の文言です。日米首脳会談の成果文書で台湾に言及するのは52年ぶりで、台湾と断交してからは初めてです。
 中国は領土や主権に関する問題を、決して譲らない「核心的利益」と位置づけています。その中でも、台湾問題は新疆ウイグル自治区や香港などと比べものにならない「核心の中の核心」です。中国政府は「1つの中国」という原則を他国にも認めさせることに躍起で、台湾と国交がある国には経済援助などのからめ手も使って、執拗に断交を迫っています。最近ではパラグアイ政府が「中国政府の代理人と称する仲介業者らが、新型コロナウイルスによる中国製ワクチン提供の条件に、台湾との断交を要求した」とも明らかにしています。
 台湾という中国政府にとってのレッドラインに触れた日米首脳会談の共同声明を受けて、中国政府はすぐさま両国に強く抗議しました。中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報(電子版)は「中国を封じ込める米国の戦略に日本が加わり、中日関係は改善の勢いを失った」との社説を発表しています。一方、人民日報では日米首脳会談の記事はそれほど目立たない位置に置かれました。米国との関係改善が見込めない中国にとって、日本との対立を決定的に深めるのは得策ではないという思惑が見て取れます。
 中国において国家間関係が悪化した際に矢面に立つことになるのは、相手国から中国に進出している企業です。沖縄県の尖閣諸島の領有権を巡る問題で日本と対立した時、「愛国無罪」というスローガンが叫ばれ、日本企業の店舗が破壊されたのはわずか9年前のことでした。
 中国国営の新華社は4月1日、音楽大手のエイベックスが公式サイトで台湾を国家のように表記したとして、「中国で活動する際は、1つの中国の原則を厳守すべきだ」「中国国民の感情を傷つけた」と伝えました。数年前にサイトにアップした記述がネット上で炎上したことを報じたものでエイベックスは謝罪に追い込まれていますが、首脳会談前にニュースになったことは同社にとって不幸中の幸いだったかもしれません。
 今や中国に関わるすべての日本企業にとって、1つのミスが命取りになりかねません。最大限の注意が必要な局面と言えます。日中両国の歴史や中国独特のスタンスについて社内教育を再度徹底するのはもちろん、問題のある記述内容がサイト上に残っていないかなども改めて点検する必要がありそうです。
(上海支局長 広岡延隆)

(写真:AFP/アフロ)