中国政府がアリババ集団に香港英字紙「サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)」などメディア資産の売却を迫っている。米ウォール・ストリート・ジャーナルが先週伝えた、このニュースは瞬く間に世界中に広がりました。
 中国の国内メディアは共産党の「喉と舌」、すなわち代弁者であると表現されます。近年、その傾向は一層強まっており、2019年から中国メディアの記者はスマートフォンのアプリ「学習強国」で、習近平国家主席の指導思想「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」の理解度を測るテストに合格しなければならなくなりました。中国政府が思想、言論の統制をしたいという意向そのものは今さら驚くことでもないのですが、いよいよ民間企業のビジネスにまで口を出してきたかと暗たんたる気持ちになります。ここ数年ですっかり形骸化したとはいえ、建前上は「一国二制度」によって言論の自由が守られていたはずの香港メディアまでが含まれているとなればなおさらのことです。
 もっともアリババにも落ち度はありました。メディアビジネスで最も重要なのは公益性であり、オーナーだからといって都合の悪いニュースを流さないということは許されません。ところが昨年、アリババのEC事業トップの不倫スキャンダルについての書き込みをアリババの出資先の「微博(ウェイボ)」が大量削除したのです。不倫相手は中国のECサイトで販売するのに不可欠なKOLと呼ばれる人気インフルエンサーでした。
 まるで検閲ですが、興味深いのはウェイボの行為について中国当局が不快感を示し指導したことです。中国政府による言論統制はOKでも、民間企業のそれは許さない。世論を左右できる権利を持つのは、あくまでも政府と党だけだということでしょう。
 巨大化したアリババの力をそぎたいという意向が、ここに来ていよいよ際立ってきた中国政府。今や米国の向こうを張る大国の政府を、一企業の何がそこまで警戒させているのでしょうか。本日からアリババの今に迫る新連載を開始します。海外渡航が難しくなっている今だからこそ、皆様の「目と耳」として現地から情報をお伝えしたいと思います。
(上海支局長 廣岡延隆)

(写真:AP/アフロ)