日本でも少し報道されているようですが、ニューヨークでは相変わらず銃による犯罪が多発しています。ニューヨーク・ポストによると、2021年に入ってから6月6日までに市内で602件の銃撃事件が発生し、687人が負傷または死亡しています。これは20年同期間の358件・409人を大きく上回っており、さらに言うとこの20年の数字は19年通年の数字を超えていました。いかに21年の数が多いかが分かります。
 その一方で、ワクチンの普及によりニューヨークの経済は順調に再開しています。ワクチンを1回以上接種した成人の割合が7割を超え、6月15日、アンドリュー・クオモ州知事は、ワクチンを接種していない人には引き続きマスク着用を求めるものの、これまでオフィスや飲食店、美容院やジムなどに設けていた収容人数などの規制を解き、今後の対応はそれぞれの判断に任せると発表しました。
 「経済再開は本当にうれしいけれど、銃撃事件など治安の悪化が心配……」。実際に住んでいる者からすると、心境は複雑です。
 とはいえ徐々に支局への出勤頻度を増やそうと、21日に出勤しました。そして、執筆中の暗号資産(仮想通貨)に関する記事に盛り込む目的で、近所にビットコインのATMを見に行った時のこと。場所は、セントラルパークの少し南で、高級住宅やオフィス、高級ブランド店などが立ち並ぶ比較的に安全な地域です。
 ATMを2カ所回ったところ、いずれも撤去されていたため、最後の望みをかけて3カ所目に向かって歩いていると、前方から大声で叫びながらこちらに歩いてくる男性がいるのに気づきました。
 「う~ん、まずい」。どうしようか悩みながら歩いていると、あっという間に男性は近づいてきて、筆者の目の前を歩いていた若い女性2人に霧のようなつばを思い切り吹きかけました。
 「エエッ!」。本当にまずいことになっていましたが逃げる余裕はありません。何食わぬ顔でとにかく歩を速め、男性とすれ違うとさらに速足で遠ざかりました。男性は後ろからどうやら筆者に向かって、ここでは書けませんが汚い言葉(女性に向けた言葉なので筆者に言っていたのだろうと思います)を叫んでいました。
 怖くてとにかく早歩きで進むと、複数の歩行者が彼をスマートフォンで撮影しているのに気づきました。この一連の出来事を支局の仕事を手伝ってもらっているアシスタントさんに話すと、市民がお互いに危険人物の存在や事件発生を知らせるアプリ「Citizen」の存在を教えてくれました。
 試しにダウンロードしてみたところ、これがなかなかの優れものでした。アプリを開くと、地図上に自分の位置が表示されます。そして同じ地図上に、市民からリアルタイムで報告された事件や不審人物のいる場所が記号で表示されるのです。実際に見て、付近でいかに事件が多いかを目の当たりにしました。
 驚いたのは、その記号のいくつかには画像や音声、動画も添付されていた点です。実際に通報した人とニューヨーク市警のやり取りを音声で聞けたり、市民が撮影した動画をそのまま見たりできました。筆者が遭遇した男性を周囲の人が撮影していたのは、こうしたアプリに報告するためだったのかもしれません。
 現在のニューヨークは、きっと皆さんが知っているニューヨークとは別物だと思います。でも、01年の同時多発テロのときも、12年のハリケーン「サンディ」のときも、ニューヨークの経済はどん底からはい上がり、見事な復活を果たしました。どうか今回も、そうあってほしい。筆者はたった数年住んでいるだけの「なんちゃってニューヨーカー」ですが、そう願ってやみません。
 下記に正式なお知らせがあるので重複にはなりますが、当欄は今回が最後の配信となります。筆者にとってこのニューズレターは、グローバルダイジェスト登録者のみに送るというその性格上、記事よりもプライベート感が強く、皆さんに手紙を書いているような気持ちで執筆していました。なので、ちょっとさみしい気持ちです。
 良くも悪くも毎日が「ドラマ」であふれているニューヨーク。このニューズレターで書いてきたようなプライベート感強めの情報も、今後は「ニューヨーク発直行便」に盛り込んでいきます。どうかこれからも、ご愛読いただければうれしく思います。

【お知らせ】このたび、誠に勝手ながら日経ビジネス・ニューヨーク支局ニューズレターの配信を2021年6月24日をもちまして終了させていただくことになりました。ご登録いただいていました皆さまにおかれましては、ご愛読いただきましたことへのお礼を申し上げます。なお、ニューズレター配信終了にあたって、皆さまにお手続きをしていただく必要はございません。
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池松由香のニューヨーク発直行便

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(ニューヨーク支局長 池松由香)