こんにちは、ニューヨーク支局の池松です。日本に一時帰国し、再びニューヨークに戻って1週間が経過しました。日米の空気の違いを肌で感じてみて、今、改めて実感しているのが「ワクチン普及の重要さ」です。
 というのも、3週間後に舞い戻ったニューヨークには「ワクチン後の別世界」が広がっていたから。外に繰り出している人の数がパンデミック前のレベルに戻ってきていて、マスクなしでサイクリングやランニング、公園での日なたぼっこを楽しむ人たちが増えています。
 ちなみにこの記事を執筆している5月25日現在、米国で接種を「完了」した人の割合は39%で、ニューヨーク州では45%に上ります。コネティカット州(53%)やバーモント州(53%)など、半分を超えている州もいくつかあります。
 写真は、5月25日にマンハッタン地区のブライアント公園で撮影したもの。撮影している筆者の背面にはレストランとカフェがあるのですが、そのテラス席にパソコンを持ち込んで同僚と仕事をしているスーツ姿のビジネスマンもいました。「パンデミック」→「在宅勤務」→「ワクチン普及」→「青空勤務」という流れ。
 「あ~、終わりは近い!」。思わずそう叫びたくなるような光景でした。
 前回の当欄では、日本の街は通常通りの混雑具合で、レストランや店舗でも人数規制をしていない点に違和感を抱いたと書きました。なんとも言えないこの違和感は、こうした通常の(ような)生活を送ることがニューヨークでこれまで全く許されていなかったからです。1年以上にわたってずっと我慢を続け、現在のようにワクチンが普及して初めて可能になった世界でした。
 という日米の感覚の差を踏まえた上で、日本の皆さんも気になっているだろう「五輪問題」を見ていきたいと思います。
 こちらに戻ってからは、あまり東京五輪・パラリンピックに関する話題を見聞きしていなかったのですが、5月20日、初めて注目に値する報道を見ました。米CNBCのニュース番組に登場した米感染症対策のトップ、米国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長と、ニュースキャスターとの下記のようなやり取りです。
キャスター「日本ではワクチンの接種率が2%を下回っていますが、そんな状況で五輪を開催することを懸念していますか?」
ファウチ氏「そこまで低いワクチン接種率であれば、もちろん懸念します。ただ五輪を迎えるにあたって自国でどうするかを決めるのは日本政府です。ですから私が願うのは、もっとたくさんの人が日本でワクチンを接種すること。なぜならそこまでの低い接種率は本当に懸念すべきだからです」
キャスター「試合をするのに安全な状況でしょうか? それともやはり心配ですか?」
ファウチ氏「私が懸念するのは、それだけ多くの、ワクチンを接種していない人が大きな会場に集まるという点です。でもそれは私が決断することではありません」
キャスター「そうですね」
ファウチ氏「そこをぜひ明確にしましょう。さもないと、私が意図していないように『見出し』を付けられてしまいますから(笑)」
キャスター「(笑)」
ファウチ氏「私が決断することではありません。日本が決めること。彼らが決めたことをやるだけです」
 新型コロウイルスが大流行してから、米国の感染対策の中心人物として米国民の人気を集めてきたファウチ氏。感情や雰囲気を優先しがちだったドナルド・トランプ米前政権下にあっても、データから離れず客観的な見識を貫いてきた「職人気質」が人気の理由です。
 何よりもまずワクチン接種を優先させ、土台を作ってから徐々に経済を元の状態に戻す――。これが米国、ひいてはファウチ氏が一貫して取ってきた立場。そんなファウチ氏から見て、ワクチン接種率のまだ低い日本での五輪開催が不安に見えるのは、いわば当然のことだと思いました。
 米国から日本への渡航中止勧告が出たのは、この4日後のこと。その後、ジョー・バイデン米政権は「(五輪を開催するための菅義偉首相の努力を支持する)立場は変わっていない」とし、選手団は感染防止を十分にした上で渡航させる意向を明らかにしています。
 「正面切っては言えないけれど、そのワクチン接種率でやるというのはどうなの?」というのが、米国の本音ではないでしょうか。
(ニューヨーク支局長 池松由香)