こんにちは、ニューヨーク支局の池松です。ニューヨークにもいよいよサクラの季節がやってきました。筆者はまだ見ていませんが、セントラルパークのサクラが見ごろのようです。明日(米東部時間の3月31日)から2日間は雨の予報なので、散ってしまう前に早めに見に行きたいと思っています。
 私事で恐縮ですが、赴任してちょうど2年がたちました。思い起こせば昨年の今ごろは、ニューヨークで新型コロナウイルスの感染爆発が起きていました。4月初旬は1日の死者数がニューヨーク州だけで700人を超えたピークの時期。数時間ごとに救急車やパトカーのサイレンが鳴り響いていたのと、毎日のように取材で医師や看護師の方々に病院で起きているすさまじい現状を聞いていたこともあって、精神的にかなり参っていたのを思い出します。皆さんもきっと同じだと思いますが、当時はまさか1年後も同じウイルスに苦しめられているとは想像していませんでした。皆さんもこの1年間、通常なら考えられないようなご経験をされたことと想像します。
 今回はスエズ運河のコンテナ船座礁の話を……と思っていたのですが、夕方の地元ニュースを見て、やはり3月29日にニューヨーク市マンハッタンで起きたアジア系住民を標的にしたヘイトクライム(憎悪犯罪)の話を取り上げることにしました。先週も取り上げたテーマなので心苦しいのですが、あまりに身近な事件だったのでお許しください。
 ニューヨーク市警が監視カメラの動画付きで公開したツイッターによると、事件は米東部時間午前11時40分頃に起きました(動画は暴力的な内容が含まれますのでご注意ください)。65歳のフィリピン系の女性がマンハッタンの高級マンションの前を歩いていると、前方から来た黒人男性にいきなり腹部を蹴り飛ばされました。この時、男性は「You don't belong here!(おまえはここに属さないよそ者だ)」と叫んでいたといいます。女性は地面に倒れ込みますが、犯人は容赦なく、女性の頭部目掛けて何度も何度も蹴り込みます。その様子は目を背けたくなるほどでした。
 動画はその高級マンションの監視カメラで撮影したもののようでした。マンションはタイムズスクエア近くの43丁目にあり、筆者の自宅からも数ブロックの近隣です。43丁目のパイのお店でよくサザン・ピーカン・パイを買っているので同じ場所を通りますが、普段は住民が犬の散歩をしたり井戸端会議をしたりしている和やかな雰囲気の場所なのです。
 動画は市警が犯人の情報を募るために公開したものでしたが、この動画を見た視聴者の批判は動画に映っていた配送員とビルの従業員にも向けられました。女性が攻撃されているのに気づいていたのに、女性を助けようともせず、逆にドアを閉めてしまったからです。従業員についてはビルのマネジメント会社が労働組合と協力して調査を進めていて、調査が終わるまで停職処分となっています。犯人は30日夕方の段階でまだ捕まっていません。
 この事件で明らかになったのは、人種差別の「見過ごし」はもはや許されないということです。状況にもよるとは思いますが、街で誰かが攻撃されているのを見たら、基本的には助けに入る勇気を持たなければならないわけです。「そんな勇気が果たして自分にあるだろうか?」などと考えてしまいました。
 こんな事件が起きている一方で、近ごろ、街中でなんとも不思議な「保護のまなざし」も感じるようになりました。特に女性や黒人の、普段は差別される側にいる店員さんやバスの運転手さんなどから、優しく話しかけられたり冗談で笑わせようとしてくれたりといった気遣いを感じるようになったのです。気のせいかもしれませんが(笑)、「自分がアジア人だからかな?」と思っています。
 パンデミック発生から1年。経済的ダメージが長引けば長引くほど、人々の心もむしばまれていきます。苦しい時期だからこそ、周囲の人といたわり合いながら明るく危機を乗り越えていきたいものです。
(ニューヨーク支局長 池松由香)