こんにちは、ニューヨーク支局の池松です。先週から夏時間が始まり、日が沈むのが午後7時過ぎとだいぶ遅くなりました。日が長いとそれだけで気分は明るくなるものですね。皆さんはいかがお過ごしでしょうか。
 この原稿を書いている3月23日、香港からの移民を両親に持つ中国系米国人の知人と、ある話題で盛り上がりました。日本の皆さんも耳にしていることと思いますが、ここ数週間、アジア人に対するヘイトクライム(嫌悪犯罪)が米国各地で急増しています。ニューヨークも例外ではありません。高齢の女性がいきなり突き飛ばされ、新聞の入った金属製のボックスにたたきつけられて重傷を負ったり、若い女性が手の甲を刃物で刺されて何針も縫うけがを負ったり……。「気をつけないとね」という話の中で出てきたのが、米サンフランシスコで17日に発生したちょっと「意外な結末」の事件でした。
 主役は76歳の中国系おばあちゃん。米CBSの報道によると、おばあちゃんが市内の目抜き通りであるマーケット・ストリートで信号待ちをしていると、いきなり左目を何者かに殴られました。相手は39歳の白人男性。高齢者を襲う犯罪を繰り返していた人物のようで、おばあちゃんを殴ったのも別の83歳のアジア人男性を襲撃した後だったようです。
 おばあちゃんは(たぶん近くに落ちていた)木の棒をつかみ、この犯人に反撃しました。すぐに警察が駆けつけたのですが、なんと止めたのは男性ではなくおばあちゃんのほう。襲撃した男性は顔から血を流し、ぐったりしていたといいます。犯人はその後、手錠をかけられてストレッチャーに乗せられ、病院に運ばれました。
 筆者はまだ発見できていないのですが、その知人によると、現場にいた人が記録していた動画がネット上に公開されているようです。
 「おばあちゃん、すごかったのよ! 犯人を絶対に逃がすものかとものすごい勢いで追いかけて。20代の私でもあんなに速くは動けないと思う。最後は逆に、自分が負った傷よりも大きな傷を相手に負わせたんだから。なんと強くて勇気のある女性なんでしょう!」
 知人がこう興奮気味に教えてくれました。
 もちろん、おばあちゃんも深い傷を負いました。筆者がニューヨークの地元ニュース番組で見たときは、おばあちゃんはまだ目から血を流していて、「左目は見えない」と泣きながら言っていました。
 おばあちゃんの家族は、おばあちゃんの治療費や心の傷を癒やすセラピーなどに使う目的でクラウドファンディングを立ち上げ、資金を募りました。目標額は5万ドルでしたが、米東部時間23日午後8時すぎの時点でなんと91万ドル以上の資金が集まっていました。
 このクラウドファンディングのサイトに、同日のおばあちゃんの様子や談話が孫の男性によって書き込まれていました。それによると、おばあちゃんの目の腫れはだいぶ治まり、精神面もよくなってきているとのことでした。そして、おばあちゃんはこう言っていたそうです。
 「私たちは人種差別に屈してはならず、必要なら死ぬまで闘わなければなりません。(クラウドファンディングで)集まった資金は、すべて人種差別と闘うアジア系アメリカ人のコミュニティーに寄付してください」
 あっぱれ! こんな格好いい女性にいつかなりたいと思いました。
(ニューヨーク支局長 池松由香)
(写真:San Francisco Chronicle/Hearst Newspapers via Getty Images)