こんにちは、ニューヨーク支局の池松です。先週はこのニューズレターで「本日は最高気温が18度」というお話をしたかと思いますが、この原稿を書いている3月16日は、1日中2度くらいでした。近くの食料品店に買い物に出ると、ホコリのように小さな粉雪が……。住んでいるマンションの下で地元の方に「雪だ! ちょっと前は暖かかったのにね」と話しかけると、「ウソをつかれたよね。これで春が来ると思ったのに」と笑っていました。皆さんはいかがお過ごしでしょうか。
 日本でも数多く報道されていると思いますが、米株式市場では今、特別買収目的会社(SPAC)の上場が花盛りです。これは世界の数字なのですが、米インサイダーの記事によると、2021年の年明けからこれまでにSPACで上場した企業の数は258社で、20年1年間の256社を早くも上回ったといいます。
 これを肌で感じる出来事が1月と2月にありました。日経ビジネスの特集向けに取材した未上場企業2社が、いずれも取材直後にSPAC上場を果たしたのです。
 ところで皆さん、SPAC上場直前の企業のCEO(最高経営責任者)が上場目前であることを隠すために、記者の取材にどんな受け答えをすると思いますか? 結果が少し面白かったので共有します。
 1月に取材したのは、米ルーシッド・モーターズ。ちょうど1年くらい前にシリコンバレーの工場を訪問したことのあった高級EV(電気自動車)メーカーです。取材相手はピーター・ローリンソンCEOでした。同社は新工場の建設に莫大な投資をしていたので、「資金調達は大丈夫なんですか?」と聞くと、こんな答えが返ってきました。
 「どこかで上場するというのが私たちの計画の一部です。この領域はウオッチしていてください。とても野心的に大量のEVを生産する予定なので、もっとたくさんの資金が必要になります。いずれは低価格モデルにも参入したいですし……あ、ごめんなさい。次の予定があるのでもういいですか?」
 何か隠しているのかな?と感じた筆者は「いつ上場するのですか?」と聞くと、「18カ月以内……かもしれません」と言い残し、取材は強制終了となりました。ルーシッドがSPAC上場を発表したのが、この約1カ月後です(参考記事)。
 2月に取材したのは米宇宙開発ベンチャー、ロケットラボのピーター・ベックCEO(上の写真)でした(参考記事)。EV生産もそうですが、やはりロケット打ち上げも莫大なコストがかかります。「近く上場するのですか?」と直球で聞くと、次のような答えでした。
 「いいえ、いや、私たちはプライベート・カンパニーで、とてもハッピーなのです。わ、私たち、私たちは、世界市場を視野に入れていますし、(打ち上げ)ミッションでは他社に比べて優位です。でも、私たちは長期的戦略に基づいて事業を拡大していって……あの、臆測に対するコメントはできません」
 なんとも分かりやすい動揺っぷり(笑)! ベックCEOへの親しみが湧きました。同社がSPAC上場を発表したのは、この約1週間後でした。
 これは筆者の勝手なイメージですが、SPACの活用は、料理に例えると「レンチン」です。食材の厳選や下ごしらえなどの工程はその道のプロに任せて、利用者は「レンジでチン!」で済むのでとても便利。ただ長期的に見て、その道を選ぶことがその企業にどんな影響を及ぼすのか。SPAC発企業の今後は長期的に注視していきたいと思っています。
(ニューヨーク支局長 池松由香)