こんにちは、ニューヨーク支局の池松です。積雪こそないものの、こちらはまだ最低気温がマイナスになる日々が続いています。日本はもうすぐ春を感じられる頃でしょうか。サクラは米国にもありますが、やはり日本で見たいものです。
 日経ビジネスの海外支局から基本的に毎日、地元メディアの報道から3本の記事を選んでお届けしている「グローバル・ダイジェスト」。日本時間の3月3日にお届けした米スペースXに関する記事が面白かったので、ここでもう少し詳しく取り上げようと思います。
 記事はビジネス・インサイダーが掲載したもので、米国で2日に発行された書籍「Liftoff(リフトオフ)」の内容を取り上げていました。ここでざっくりと概要をお伝えします。
 2002年に設立されたスペースXは当初、「早くロケットの打ち上げを成功させて既存メーカーよりも早く安く打ち上げられることを証明したい」と、早期打ち上げにこだわっていました。
 舞台は太平洋マーシャル諸島のオメレク島。カリフォルニア州に拠点を置く同社にとって米空軍が同州に持つ発射台を使うのが効率的でしたが、「新参者」だった同社は空軍から快く思われていなかったのか、使用許可がなかなか下りませんでした。
 そこで頼ったのが、同社には友好的だった米陸軍でした。陸軍が管轄するオメレク島にエンジニアを送り、そこで打ち上げにチャレンジすることにしたのです。
 2005年秋のこと。オメレクのエンジニアチームが昼夜を徹して働いていたある日、本社のマネジャーたちから「叱責」を受けました。ロケットに加えた設計変更を書類に適切に反映していなかったからです。
 すでに身を粉にして働いていたエンジニアの中には、「早く打ち上げを実現させるために働いてきたのに、今度は書類の作成までやれと言うのか」と不条理を感じる人が出てきていました。そんな時、事件は起こります。
 もともとオメレク島へ物資を供給するボートの運航は不安定でした。食料とビール、タバコの到着を心待ちにしていたエンジニアの期待をよそに、この日の供給便は届きませんでした。
 エンジニアたちの怒りは爆発。チームのリーダーは本社の打ち上げ責任者に電話をし、こう告げました。
 「食料とタバコを今すぐ届けてもらえなければストライキする!」
 そのくらい、おなかがすいていたのです。責任者はすぐに並々ならぬ雰囲気を察知し、陸軍にヘリコプターによる緊急物資の供給を依頼しました。
 陸軍のパイロットがヘリで責任者に依頼されたチキンウイングとタバコを届けようとしましたが、発射台建設中の島への着陸は危険だと考えられました。そのまま立ち去ろうとしたのをチームのリーダーが止めます。パイロットを「今度、お酒をおごるから、どうか窓から物資を放り投げてくれ」と説得。チームは無事にチキンを食べることができました。
 失敗を重ねた後の07年3月、チームは初めてロケット打ち上げに成功します。そこにいたるまでにはイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)の粋な計らいもあったようです。従業員の士気を高めるため、ボーイング727型機での無重力体験に約40人を招待し、「宇宙飛行士気分」を味わってもらったといいます。
 こうした逸話を聞くと、20年5月に同社が民間企業として初めて達成した有人宇宙船の打ち上げ成功のニュースも、さらに心にしみてきます。
 ほんの十数年前は「中小企業」だったスペースX。信念を持ち続けて果敢に挑戦し続ければ、夢は必ずかなえられることを、改めて私たちに教えてくれています。
(ニューヨーク支局長 池松由香)

(写真:ロイター/アフロ)