極寒の地から、こんにちは。ニューヨーク支局の池松です。今日から基本的に毎週木曜日、ニューヨークで話題になっているニュースの雑感や日々の暮らしの中で気づいたことなど、比較的に柔らかい話題を皆さんとシェアしていきたいと思っています。ガッツリ重めの米国ニュースは新聞などで読めると思いますので。
 つい先日、バレンタインデーの出来事です。食事から戻ってきて自宅マンションのエレベーターに乗り込み、扉の外を見ると、ホールにまだ2人、待っている人がいました。エレベーターの数が少なく、一つを逃すとなかなか次がやってこないことが多いので、「開く」ボタンを押して2人が入ってくるのを待っていました。
 ちなみに当マンションでは、1度にエレベーターに乗っていい人数は4人までと決められています。新型コロナウイルスの感染拡大が始まってから導入されたルールで、エレベーターの床に「ここに立ってください」というシールが4つ、貼られています。
 まず乗り込んできたのが、レストランの宅配担当者らしき黒人男性でした。でも、もう一人の白人女性がなかなか乗ってきません。イヌの散歩に行ってきたようで、小さな白いイヌを連れていました。
 なかなか来ないので「乗る?」と聞くと、その女性はうつむき加減に我々の視線の届かない位置に移動してしまいました。「乗らないんだな」と判断して扉を閉め、しばらく黙って乗っていると、黒人男性が何かモゴモゴと話し出しました。
 最初は独り言かと思ったのですが、なんとなく筆者に話しかけている気がしたので「え?」と聞き直すと、今度ははっきりと分かるボリュームでこう言いました。
 「あの女性は僕が黒人のデリバリーマンだから一緒に乗ってこなかったんだよ」
 「えーっ、そんなことないと思うよ。なんでデリバリーマンだと乗ってこないの?」と筆者。
 「デリバリーマンはみんな、コロナを持っていると思っているんだ。だから彼女は乗ってこなかったんだ」
 「うそ! もしそうだとしたらひどすぎる」と言ったところで、その男性の目的の階に到着。男性はエレベーターを降りると、扉を押さえて筆者の顔をのぞき込み、「ありがとう」と軽く会釈をして去っていきました。
 下に並ぶタイトルは、筆者自身が地元メディアの報道からピックアップして書いています。今週は、人種差別に関するニュースもあえてピックアップしました。
 マクロの政治経済のニュースの向こう側には、私たちと同じように、一人ひとり個性も違えば家族もいて、コロナ禍の苦しみを味わいながらも懸命に生きている人たちの姿があります。オンラインでの交流が多くなり、顔を合わせる機会が減ると、相手への想像力が乏しくなりがちです。日本でも誹謗(ひぼう)中傷のネットの書き込みが増えていると聞きます。ほんの少しの想像力を働かせることさえできれば、世界はもっと居心地の良い場所になるのではないでしょうか。
(ニューヨーク支局長 池松由香)

(写真:AP/アフロ)