日本で高齢者を対象とした新型コロナウイルスワクチンの接種が始まりました。私の父も対象年齢であり接種を希望しているものの、アクセスが殺到し予約できないとぼやいています。
 その半面、接種を望まない人も多いようです。世界の国々の事例を見る限り、接種率が高まるほど感染率が下がり、経済活動が再開できるという相関関係があるので、各国政府は接種率を高めるために知恵を絞っています。米国では接種者に無料ドーナツを振る舞うケースもあるようです。
 接種率向上の1つの鍵となるのは、政府や医療関係者のコミュニケーション能力でしょう。インターネットでは、ワクチン関連のデマが多く、それを信じる人が一定数いることは否めません。国民の半数以上が接種を受けている英国でも、接種開始当初はワクチンに関する多くのデマが流れました。例えば、ワクチンに豚や牛の成分が入っているというデマがあり、これが原因で一部のイスラム教徒やヒンズー教徒の人々が接種を拒否する動きもありました。
 こうした状況を見越し、英政府は早くからデマ対策に力を入れていました。国民医療制度(NHS)にデマ対策チームをつくり、デマが流れる地域の住民の携帯電話に正しい情報を送っていました。
 デマが広がるのは、主にSNS(交流サイト)です。ハンコック英保健相とダウデン英デジタル・文化相は、米グーグル、米フェイスブック、米ツイッターなどに、プラットフォーム上で拡散する陰謀論や反ワクチンに関わる言説を取り締まることを要請。これらの企業は、少なくとも月に1度は政府関係者と会い、デマ対策について協議することになっています。
 こうした対策も一役買っているのでしょうか。英ユーガブの調査では、20年11月10日には英国でワクチン接種を望む人は61%だったのが、接種が進むにつれ割合が上がり、21年5月10日時点では90%まで上昇しています。実際、英国家統計局(ONS)の3月11日までのデータによると、70歳以上では約9割の人が接種を受けています。
 先述のデマ対策に加え、知り合いの接種経験者から感想を聞く機会が増えたことも、接種を受け入れる人の増加につながったようです。日本でもネット上にあふれる過激な情報に振り回されず、身近な人同士で接種の経験などを冷静に語り合っていくことが、接種率の上昇につながりそうです。
(ロンドン支局長 大西孝弘)

(写真:Richard Baker/Getty Images)