英国では5月に入ってから海外旅行の話題で持ち切りでした。「年齢制限で物議、アストラゼネカ製ワクチン接種と副作用のリアル」で書きましたが、国民の半分以上が新型コロナウイルスワクチンを接種し、1月のピークから新型コロナの感染者と死者が急減。5月17日からの海外旅行の解禁が迫っていたからです。
英政府は7日にその詳細を発表しました。感染リスクに応じて国・地域を「緑」「黄」「赤」と信号のように分類する仕組みです。緑は帰国時の自主隔離が不要で、実質的に旅行がしやすくなります。緑のリストには、ポルトガルやイスラエル、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランドなど12の国と地域が入りました。
「黄」リストの国は、英国入国後に10日間の自主隔離が必要になります。日本のほか、米国やフランス、ベルギーなどが対象になりました。4月に筆者の家族がベルギーから英国に入国し、その際に10日間の自主隔離を経験しました。入国前にテストを実施した上で、1人当たり210ポンド(約3万2000円)の検査キットを購入し、2日目と8日目に自ら検査を実施。そのキットを郵送して感染の有無を確認したほか、何度か当局から在宅を確認する電話が入りました。
緑リストの国からの入国時は、新型コロナ感染の陰性証明の提出や入国フォームへの記載が不可欠になります。特に陰性証明のためのPCR検査は高価で、1人当たり出国と入国の2回で少なくとも200ポンドが必要になる見込みです。それでもポルトガルには旅行者が殺到することになりそうです。
渡航規制が続けば家族や親戚に会えず、ビジネスや観光にも大きな影響が出ます。英政府は独自判断で1回目のワクチン接種を優先するという政策を採用したように、独自のシステムで渡航制限を解除していく考えのようです。信号システムによるリストは3週間ごとに見直され、感染状況が改善すれば緑リストに登録される国が増えます。
翻って日本は渡航制限の強化も緩和も遅いように感じます。今は国内で感染者が増え、渡航制限を緩和するような状況ではないかもしれませんが、規制強化のタイミングも遅かったように感じます。また、ワクチン接種が普及し、感染者が減っている国に対する制限解除も遅いのではないでしょうか。
英国は感染者が急減していますが、日本渡航時の強制隔離や自主隔離の制度は変わっていません。新型コロナウイルスの感染拡大の状況は日々刻々と変わります。東京五輪・パラリンピックなど様々な要因があるのかもしれませんが、渡航規制の強化も緩和も柔軟な対応をしなければ、新型コロナ対策も経済対策も効果が中途半端になってしまう恐れがあります。
(ロンドン支局長 大西孝弘)
(写真:AFP/アフロ)