「我々は過ちを犯しました。おわびを申し上げます」。
 欧州のサッカー強豪クラブが4月18日に創設を発表した「欧州スーパーリーグ(ESL)」が、様々な反発や混乱を招き、当初参加を表明していたイングランドのプレミアリーグ所属の6クラブ(通称:ビッグ6)は20日に脱退を表明しました。冒頭のコメントは、その中のアーセナルのものです。他のクラブも代表者や声明を通じて、反省の弁を述べました。
 ESLはファンから総すかんを食いました。主な理由については「欧州サッカー『金持ち』クラブの新リーグ 大衆のエリート批判に火」で記しましたので、よろしければご覧ください。あまりの反発に、ビッグクラブは脱退を余儀なくされました。サッカークラブはブランドビジネスに似た面があり、実力と共に人気で集客やグッズ販売が左右され、イメージの毀損はビジネスの根幹に関わるからです。
 気になるのは、サッカービジネスに精通しているはずのビッグクラブの経営者たちが、なぜこうしたファンの心理を読めなかったのかという点です。英調査会社ユーガブによると、ESLに反対するファンは79%に上りました。
 今回はESLに参加表明したビッグクラブのファンも反発したのが特徴です。欧州のビッグクラブ同士の試合が増え、収益が向上するかもしれませんが、ファンは支持しませんでした。同ユーガブの調査では、ビッグ6のファンの76%がESLに反対しています。またその65%がESLの試合に興味がないと答えています。
 20年以上前に初めて英プレミアリーグのゲームをスタジアムで見た時の感動が忘れられません。下位に低迷していたコベントリーのホームゲームで、日本に比べてサッカーの内容が特別に優れていたわけではありませんが、何よりも観客の反応に驚きました。全ての観客がゲームに集中しているかのようで、選手のちょっとした好プレーやミスに息を合わせたように大きな歓声やため息がシンクロし、響くのです。チャンスを逃した際には、観客のため息でスタジアムが揺れたように感じました。ファンが地元クラブを、サッカーを愛していることがひしひしと伝わってきました。
 コベントリーはその後、低迷を続けていますが、ファンは再びプレミアリーグに戻ることを祈っているはずです。そしてチャンピオンズリーグに進出するという夢を持っているかもしれません。こうした小さなクラブの集積の上にビッグクラブがあり、巨大な欧州サッカーのエコシステムが形成されています。しかし、ESLは入れ替え戦もなく、中小クラブにとってはほぼ無関係のリーグになります。
 今回のESL創設に関する騒動は、企業や組織にとってステークホルダーは誰なのかという点を考えさせられます。経営者として安定収益の確保や株主の期待に応えなければならないのは理解できますが、重要なステークホルダーであるファンを無視した行為だったことは、ESLからの撤退が明らかにしています。商品を販売するメーカーであれば、自社商品の顧客を顧みない経営に当たると言えます。一部のステークホルダーの利益だけを最大化する経営が、持続可能だとは到底思えません。
(ロンドン支局長 大西 孝弘)

(写真:AFP/アフロ)