ロンドンで散歩の際に話すようになった初老の男性は、いつも温厚で話しやすいのですが、社会問題の話題になると口調が変わります。急に断定的な口調になり、特定のサイトにアクセスすることを迫り、彼の主張を押しつけようとします。
 そのようなことが何度かあってからは、当たり障りのない話をしようと心がけていますが、それでも時節柄、新型コロナウイルスの話題などになります。
 彼は基本的に新型コロナは政治家とメディアが作り上げたデマで、病院にコロナ患者はいないという主張をします。昨夏に印象的だったのが、9月に英BBCが破綻すると断言していたことです。BBCは政治家と一緒に新型コロナのデマを流し続けており、9月にそれが明らかになることで大問題となり、破綻するという話を大真面目にするのです。期限を明示していたので結果は明白でした。今も英BBCは存続し、報道を続けています。
 いろいろな陰謀論がある中で、初老の男性がどの主張にくみしているかは分からないのですが、特徴的なのが大手メディアを敵視している点です。フェイスブックなどSNS(交流サイト)の情報を信じる一方で、BBCなど大手メディアの報道はほとんどが嘘だと思い込んでいます。
 3月22日、フランス・パリに拠点を置く国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団(RSF)」は、メディアに対するヘイトスピーチや新型コロナのデマを拡散させたとして、米フェイスブックのフランスとアイルランドの法人を提訴したと発表しました。
 RSFは、ワクチンを巡る陰謀論やジャーナリストに対する侮辱や脅迫を含む投稿がフェイスブック上で拡散し、削除もされておらず、同社が掲げる「安全なオンライン環境」が守られていないと主張しています。
 フランスの消費者法は、商品やサービスに関する誤解を招くような主張や表現をした企業に年間売上高の10%を上限とする罰金を課しており、本件がこれに該当するかが争点になっています。SNSのプラットフォーマーは、その内容にどこまで責任を負うのか。議論を深める必要があります。
(ロンドン支局長 大西孝弘)

(写真:PA Images/アフロ)