日本ではあまりなじみがないかもしれませんが、英国には多くのライドシェアサービスがあります。その中でも米ウーバーテクノロジーズは最大手であり、ウーバーにとってもロンドンは利用回数が多く、重要な市場です。
 「嫌なことを言われた」「遠回りをされた」などの悪評があり、実際にトラブルもあるため、利用する人とそうでない人ははっきり分かれるように感じます。私はタクシーが拾いにくい場所などではよく利用し、運転手の対応が多少悪かったことはありますが、困るような経験をしたことはほとんどありません。米国はもちろんのこと、欧州各地でも利用しましたが、サービスの内容に大きな違いはありませんでした。新型コロナウイルスの感染拡大以降は、運転手が必ずマスクを着用しています。
 そのウーバーが3月17日、ビジネスモデルの根底に関わる方針転換を発表しました。英国の運転手7万人に対し、英国の定める最低賃金の支給と有給休暇など最低限の雇用保障を提供するというのです。これまでウーバーは、運転手は個人事業者と位置づけ、こうした保障の提供を拒否していましたが、方針を転換しました。
 この背景にはもちろん、2月に英国の最高裁判所が下した判決があります。ウーバーの運転手を個人事業主ではなく、従業員として扱うべきだという判決です。最高裁は「運転手はウーバーに従属し、依存している」と指摘しました。この裁判の原告は数人の運転手でしたが、この解釈が他の運転手にも適用されれば、最低限の雇用保障が求められる可能性がありました。
 今後の注目点は、この潮流がどこまで広がるかです。ウーバーの他にも宅配など様々な業界で単発の仕事を請け負う「ギグワーカー」が増えています。写真の中でアピールしているように、ウーバーの運転手はギグワーカーの象徴と言えます。英国に関しては最低賃金以上の収入を得ているウーバーの運転手が多いというデータもありますが、ギグワーカーの権利保護や所得向上という意味で、今回のウーバーの動きは幅広い影響を与えそうです。
(ロンドン支局長 大西孝弘)

(写真:AP/アフロ)