大きな代償を伴う買収になりました。医薬・農薬大手の独バイエルは2月25日、2020年12月期決算で最終損益が、104億9500万ユーロ(約1兆3500億円)の赤字に転落したことを発表しました。主因は、米国における除草剤「ラウンドアップ」の発がん性をめぐる訴訟の和解金など、主に農薬関連で232億ユーロ(約3兆円)の巨額の特別損失を計上したことです。
 バイエルは18年に630億ドル(約6兆7400億円)で農薬・種子大手の米モンサントを買収しました。買収完了直後の同年6月に、私はヴェルナー・バウマンCEO(最高経営責任者)にインタビューする機会を得ました。バウマン氏はCEO就任前から会社の戦略策定を担い、同社のポートフォリオ改革をけん引してきました。
 早くからCEO候補と目されており、社内では「プリンス」と呼ばれていたそうです。インタビューでは終始冷静に経営を語っていましたが、モンサント買収については、「買収により農薬・種子事業で世界最大手になる。両社は補完関係にある」と語り、買収に揺るぎない自信を見せていました。
 しかし、その後、状況は暗転します。18年8月以降に米カリフォルニア州の訴訟で、買収したモンサントのラウンドアップの発がん性が指摘され、高額の賠償命令が相次ぎました。バイエルは上訴したものの、全米で原告が急増し、原告は10万人を超えました。最終的にバイエルは20年6月、最大109億ドルの和解金を支払うことで原告団と合意します。
 その間、私はオランダの農場に足を運び、バイエルの担当者からラウンドアップについて話を聞きました。冒頭の製品の写真はその時に撮影したものです。バイエルの担当者は、その安全性を様々なパネルを用いて説明してくれました。国際がん研究機関(IARC)が「おそらく人間に対して発がん性の疑いがある」とした見解についても、同じカテゴリーには肉やビールも入っており、発がん性を断定していないと話していました。バイエルは米国の原告団と和解した後も、ラウンドアップの安全性を主張しています。
 科学的には様々な見解があり、決着がついていません。ただ、はっきりしているのは、バイエルが米国の訴訟リスクを見誤ったということです。科学的にはグレーでも、裁判で負けることは十分にあり得ます。今後、日本企業は海外でM&A(合併・買収)を仕掛けていくことが増えるでしょう。その際に、訴訟リスクをどのように勘案するのか。バイエルの巨額買収と巨額損失には、グローバル経営に対する多くの示唆が含まれているように思います。
(ロンドン支局長 大西孝弘)