英ロンドンで暮らしていると、電気自動車(EV)をよく見かけるようになりました。街中では充電設備も増え、インフラも整いつつあるように感じます。やはり目立つのは、「テスラ」です。欧州メーカーを差し置いて、存在感を発揮しています。
 もう1つ、ロンドンならではの特徴は、「ジャガー」と「ランドローバー」の自動車が多いことではないでしょうか。世界中の都市部でEVが増えていますが、この両ブランドの自動車が頻繁に走っている都市は少ないでしょう。ただ、この両ブランドは、ほとんどガソリンかディーゼルのエンジン車です。
 この両ブランドを手掛ける英ジャガー・ランドローバー(JLR)が2月15日、大胆な事業計画を発表しました。25年からジャガーをEV専業ブランドとし、30年までにジャガーとランドローバーの全車種でEVを発売するという計画です。
 従来のジャガーのイメージからすると、意外だと感じる方もいるかもしれません。同ブランドは大型エンジンを搭載し、パワフルな挙動とそのエンジン音に愛着を持つファンが多くいます。作家、村上春樹氏の小説『騎士団長殺し』でも、ジャガーのエンジン音が効果的に描かれていました。
 しかし、JLRにはEVシフトが不可欠でした。2030年に英政府はガソリンとディーゼル車の新車販売を禁止する計画を明らかにしているからです。トヨタ自動車や独フォルクスワーゲン(VW)に比べて規模の小さなJLRは、EV開発で不利だといわれていますが、高級車のユーザーは車両価格が多少上がってもブランドや性能が伴っていれば、購入する傾向があります。JLRがブランド力を維持したまま高性能のEVを発売できれば、同社はEVで成長できるかもしれません。
 JLRはインドのタタ自動車の子会社であるとはいえ、英国内に3つの工場があり、多くの従業員を抱えています。EVシフトに失敗すれば、英国での生産が減り、雇用にも悪影響を与えかねません。JLRのEVシフトの成否は、英国の産業界に大きな影響を与えそうです。
(日経ビジネス ロンドン支局長 大西孝弘)

(写真:Leon Neal / Getty Images)