先週末、ミャンマー国境に近いタイ北西部を回ってきました。両国を分けているのは写真のような決して大きいとは言えないサルウィン川。向かって右側がタイで左側がミャンマーです。ボートがあれば場所によっては1分もかからず行き来できるでしょう。ただ2月1日に発生したミャンマー国軍によるクーデター後、ミャンマーの人々が容易にこの川を渡ることができなくなってしまいました。
 今回訪れたタイ側の国境地帯は平穏そのものですが、川を渡って国境を越えれば厳しい状況が広がっています。クーデター以降、このエリアを影響下に置いている少数民族カレン族の組織、カレン民族同盟(KNU)と国軍との戦闘が激化しています。地上戦だけでなく、国軍はカレン族の村への複数回にわたる空爆にまで踏み切り、多くの人々が住まいを追われました。さらにネピドーやマンダレーなどミャンマーの大都市から国軍の弾圧を受けた人々も相次ぎこの地域に逃れて来ています。KNUの関係者によれば、タイ北西部と国境を接する東部カイン州(旧カレン州)の北部だけでも6万~7万人の避難民がいるそうです。国中ではどれほど多くの人々が国軍のクーデターとその後の弾圧により難民化しているのか。その実態は容易にはつかめなくなっています。
 避難民の中にはタイに渡ることを求める人々も多くいましたが、タイは実質的に受け入れを認めず彼らを追い返しました。タイにも渡れず戻ることもできず、川沿いのジャングルをさまようことを迫られている人々は東部カイン州北部だけでも数千人いるようです。
 現地関係者によれば、タイ政府はミャンマー側で安全が脅かされる事態が起きた場合は限定的に避難民を受け入れる姿勢を示しているといいますが、72時間以内にミャンマーに戻らなければなりません。タイ政府が難民支援に消極的な姿勢を示しているため、世界的な支援機関や非政府組織(NGO)も大規模な支援には乗り出せていません。
 国境に滞留する避難民が今頼りにしているのはCBO(Community Based Organization)と呼ばれる、地域や社会に根差した活動を展開するタイ側の非営利団体や現地で設立された比較的小規模なNGOです。例えばメソトという国境の町を拠点に活動する医療組織や各村で組織されたボランティア団体が支援物資を集めてミャンマーに送ったり、難民に医療サービスを提供したりしています。
 もちろん国際的なNGOも手をこまぬいているわけではありません。たとえばタイを拠点に東南アジア各地で難民支援や人権保護の活動を展開してきたPeople's Empowerment Foundation(PEF)などは、地域ごとに活動しているCBOとの連携を図り、これをネットワーク化して国際的な支援とも結びつけていこうと動いています。こうした支援活動の状況については稿を改めてまとめたいと思いますが、PEFの指導者であるチャリーダ氏はCBOと連携する傍ら、直接、現地行政の幹部やタイ国軍幹部に会い、人道的な支援が焦眉の急になっていることを訴えて回っています。
 日本政府は5月14日、400万ドル(約4億3200万円)の緊急無償資金協力を実施し、国連世界食糧計画(WFP)を通じてミャンマー最大の都市ヤンゴンに食料を提供すると発表しました。都市部でも貧困層を中心に食料不足が深刻化しつつあるため、この支援は重要です。ただ、タイ国境地帯をはじめとする各地方の少数民族や、都市部から逃れざるを得なかった人々にも、もっと目を向ける必要はあるでしょう。周辺国を動かし、国際機関、各国政府が十分に支援できる態勢を早急に構築しなければなりません。
(バンコク支局長 飯山辰之介)