先週、日本は大型連休入りしたため、編集部もお休みに。そこで、この隙を狙いタイ南部にあるビーチにでも繰り出し、ゆっくり過ごそうと画策していました。ただ計画は結局のところ実現しませんでした。新型コロナウイルスの感染者数が急増し、政府から不要不急の外出を自粛するようにとの要請があったためです。感染拡大を抑え込むため、支局のあるバンコクでは娯楽施設は閉鎖され、レストランでは店内飲食が禁止に、さらに2歳の娘とよく散歩に出かけていた近所の公園まで閉鎖されてしまいました。せっかくの連休でしたが、出かける場所が見つからず、家に閉じこもって過ごすしかありませんでした。
 1日当たりの感染者数は2000人前後と日本を下回りますが、日本よりも厳しい措置が導入されています。人々の生活や仕事を犠牲に新型コロナを抑え込む政府の姿勢については批判がある一方で、強権的な手法がこれまで爆発的な感染拡大を抑え込むことができたという見方があるのも事実です。
 ただ足元で訪れている感染拡大の第3波を抑え込めるかについては不安もあります。バンコクにある国内最大規模のスラムで感染が拡大しているからです。バンコクポストによれば、約10万人の人々が生活しているといわれるクロントイ・スラムとその周辺で少なくとも300人を超える感染者が確認されています。
 このスラムの衛生環境は必ずしもいいとはいえず、人々が密集して暮らしています。ここで感染が拡大した場合、抑え込みが難しくなるとの見方は以前から出ていました。「恐れていた事態がついに来た」とスラムの住民は不安げに話しています。
 感染者数はうなぎ登りに増える恐れがあります。あるスラム内のコミュニティーでは検査の結果、1469人の住人のうち5.3%に当たる78人が感染していました。検査対象を広げれば広げるほど、その数も急増すると考えられます。在住者によれば、幅広い年齢層で感染者が出ており、同じ屋根の下に住む一家全員が感染したという事例も相次いでいるようです。「感染力の強い変異ウイルスが猛威を振るっているとしたら、最悪の事態になる」。住民の不安は尽きません。
 政府は放送などを通じてスラムの住民に家から出ないよう呼び掛けていますが、現地紙では「生活に余裕のないスラムの人々の活動を、厳格に制限することは難しいのではないかと」という指摘も出ています。
 スラムに住む人々は清掃員や建設作業員、タクシーの運転手などとして働き、アジア有数の都市であるバンコクのインフラや人々の生活を下支えしています。スラムのすぐ隣にはバンコクの台所ともいわれる大きな市場があり、ここでも多くの住民が働いています。クロントイ・スラムに厳格な封鎖措置を導入した場合、バンコクの都市全体が機能不全に陥りかねません。一方で、スラムでの感染拡大に手をこまぬいていては、感染はスラム外にも容易に拡大していくでしょう。
 政府には難しいかじ取りが求められています。現在は住民に自粛を求めつつ、「野戦病院」と呼ばれる仮設の医療施設をスラム内に設けたり、住民への新型コロナワクチンの接種を急いだりと矢継ぎ早に対応しています。新型コロナ対応の優等生ともいわれてきたタイは難局を乗り切ることができるのか。正念場が訪れています。
 (バンコク支局長 飯山辰之介)