先週、東南アジアの配車大手グラブが特別買収目的会社(SPAC)と合併し米ナスダック市場に上場すると発表しました。時価総額は396億ドル(約4.3兆円)に上る見通しです。東南アジアを代表する急成長企業の上場は大きな注目を集めました。
 個人的に疑問に思ったのは、この4.3兆円という時価総額の評価です。東南アジア各国経済の規模はまだそれほど大きくはありません。この地域で事業展開する企業に投資家はどれほどの期待を寄せているのか。理解を助ける一つの方法として、日本企業の時価総額と比べてみようと考えました。
 グラブと同じ業態の企業が日本には見当たりませんが、同社の主力事業は配車、フードデリバリー、電子決済関連で、大ざっぱに言えばインターネット関連といえます。そこでまず日本の代表的なネット関連企業である楽天とZホールディングス(ZHD)の株価を調べてみました。4月16日の終値で見ると、楽天は約2.1兆円、ZHDは約4.3兆円でした。つまりグラブは楽天の約2倍の評価を受けており、LINEとヤフーを抱えるZHDと肩を並べていることが分かります。
 次に配車。これは広く捉えれば交通インフラということで、乱暴ではありますが日本の鉄道会社と比較してみました。日本の鉄道会社で時価総額が最も大きいのはJR東海ですが、その額は約3.3兆円(4月16日終値)とグラブを下回っています。次に電子決済。広く金融と捉えて日本の大手銀行について調べると、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が約8兆円(同)、三井住友フィナンシャルグループが約5.3兆円(同)、そしてみずほフィナンシャルグループが約4兆円(同)でした。つまりグラブはMUFGや三井住友FGには及ばないものの、現在のみずほFGとほぼ同じ評価であることが分かりました。最後にフードデリバリー。日本では出前館などが似た業態といえるでしょうか。同社の時価総額は約1900億円(同)でした。
 各社とグラブとは業態が大きく異なりますし、上場する市場も事業環境も違います。比較すること自体に無理があることは承知していますが、それでもグラブに対する期待値の高さをうかがい知ることはできたのではないかと思います。
 開示資料によれば、足元の同社の業績は赤字です。2年後にEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)で黒字化する目標を掲げていますが、ある投資関係者は「現状では実現できるとは思えない」と話しています。それでもIT(情報技術)・ネット関連市場の拡大が確実視される地域を代表する企業として、グラブは中長期的な成長期待を集め続けるのではないかと思います。同社にはソフトバンクグループやトヨタ自動車、三菱UFJ銀行などが投資しています。その株価が上昇すれば、各社に含み益をもたらすことになりそうです。
 4月14日に電子版に掲載した記事(眠れる獅子が動き出す グラブ、4.3兆円「SPAC上場」の衝撃)でも触れましたが、東南アジアや南アジアの有力スタートアップに対する投資が拡大すれば、その恩恵はまだ生まれて間もない企業にも確実に及びます。その中から新たなユニコーン(評価額が10億ドルを超える未上場のスタートアップ)やデカコーン(同100億ドル以上)が生まれる可能性も十分にあるでしょう。この地域に大規模な投資を繰り返してきた欧米や中国のネット関連の巨人は、既に血眼になって次の金の卵を探していると思います。一方、ソフトバンクを除くと日本の事業会社や機関投資家がこの地域のスタートアップに大規模投資したというニュースを目にすることはあまりありません。今後は増えてくるのでしょうか。
(日経ビジネス バンコク支局長 飯山辰之介)

(写真:AFP/アフロ)