「国境を越えて避難してきたミャンマーの人々を支援したいのだが、タイ政府の反応がよくない」。タイに拠点を持つ複数の日系支援団体の関係者からこんな声が上がっています。
 クーデターで全権を握ったミャンマー国軍は3月下旬、タイ国境に隣接する地域を空爆しました。この地域は少数民族が住み、自前の武装組織も持っています。クーデター以後は反国軍の立場を明確にし、武装組織が国軍の補給ルートを遮断したり、国軍に弾圧された人々を保護したりと動きを活発化させました。今回の空爆はその報復措置と見られています。
 報道によれば、これにより1万人を超える避難民が発生し、数千人がタイに逃れました。ただタイ側は受け入れを拒み、大半の人々を追い返しているようです。家を燃やされ、行き場を失い、ジャングルをさまようことを余儀なくされる人々が出ています。関係者によれば、タイ政府はまず軍が管理するセーフティーゾーンをつくって難民を一時的に滞在させ、どうしても戻ることができない人々に限って長期的に受け入れる方針を示しています。ただ計画は進んでいないようです。民間による支援の動きも出ていますが、上述の通りこれも難航しています。タイ政府が協力的ではなく、支援団体が自らの名前を公表して大々的に活動することを容認していません。「タイ政府が受け入れに消極的なのは明らか」と関係者は言います。
 今、行き場をなくしているのは、空爆を受けたミャンマーの少数民族ばかりではありません。国軍による弾圧の対象となった人々が安全を求めて少数民族エリアに押し寄せているようです。ただタイ側に容易には逃げ込めません。拘束され、ミャンマー国軍に引き渡される恐れが拭えないからです。
 国軍に弾圧される民衆や少数民族に冷淡なのはタイばかりではありません。たとえば中国もミャンマーとの国境を閉じています。4月1日の独立系インターネットメディア「イラワジ」の報道によると、中国は国境地帯に兵士や軍用トラックを集結させているそうです。ミャンマーと国境を接しているもう1つのアジアの大国、インドの態度も煮えきりません。避難民を追い返したりはしていないようですが、タイや中国と同様に国軍への批判は抑えており、問題への干渉についても消極的です。
 いずれの国もミャンマー国軍に一定の配慮をしているとしか考えられませんが、それぞれに様々な事情があります。例えばタイ。現政権は2014年のクーデターで誕生した軍事政権を実質的に引き継いでおり、陸軍出身の軍事政権時代の首相が今もその座にあります。ミャンマーのクーデターを声高に非難することは、自らの存在を否定することになりかねず、ミャンマー国軍との関係も深いといわれています。
 中国はミャンマーに多くの権益を抱えています。こちらも国軍との関係が深く、人々の間では「今回のクーデターの背後に中国の支援があった」という見方が広がっています。これを受けてミャンマーでは反中デモが起き、3月中旬には中国系企業の縫製工場で放火と見られる火災が起きました。中国政府は国軍に中国企業や中国人を保護するよう求めています。つまり中国からすれば、ミャンマーにある権益の「保護者」は現状で国軍なのです。そしてインド。同国は中国を強く意識しています。ある識者は「ここでミャンマー国軍との関係を断ち切ってしまったら、中国の影響力の拡大を防げない。インド政府は国軍支配の長期化を見据えて、国軍とのパイプを維持したいと考えている」と指摘しています。
 国軍の民衆や少数民族に対する弾圧がやむ気配はありません。民主主義が回復する見込みもありません。このままでは犠牲を伴う衝突が長期にわたって続くか、あるいは国軍が反発する勢力を徹底的に抑え込み、その支配を無理やり正当化するかのどちらかになりそうです。国際社会が動けないのであれば、周辺国が関与の度合いを強めて解決に当たる必要があると思いますが、その道もまた険しそうです。
(日経ビジネス バンコク支局長 飯山辰之介)

(写真:ロイター/アフロ)