今回のニューズレターは中国のニュースからまず触れたいと思います。ロイターなどの報道によると、中国のスマートフォン大手、小米科技(シャオミ)が3月30日、スマート電気自動車(EV)事業への参入を正式に発表しました。今後10年間で最大100億ドルを投じる計画です。
 サウスチャイナ・モーニング・ポストによれば、シャオミの雷軍CEO(最高経営責任者)は会見で「我々は3~5人(の従業員)しかいなかった10年前の小さなスタートアップとはもはや違う」と話し「資金も人員も、知識も経験もある」と自信を示しました。
 かつて「山寨機(さんさいき)」と呼ばれるコピー品であふれかえっていた中国のスマホ産業は短期間で激変しました。コストパフォーマンスに優れたオリジナルの機種が次々と登場。2015年に深セン市を取材した際には、山寨機は既に売り場からほぼ姿を消していました。取材を進めるうち、低価格で高品質なスマホを開発、製造するサプライチェーンが構築されていることが分かり、とても驚いたことを覚えています。
 国内で急成長した中国のスマホメーカーは販売先をアジア全域に拡大させました。ロイターの報道によれば、2020年のインドにおけるシャオミのシェアは26%に上り、中国スマホメーカー全体では75%に達したといいます。東南アジアでは、どこに行っても中国スマホメーカーの看板を見かけます。フィリピンからインドネシア、ミャンマーまで、そして都会から国境近くの町まで、シャオミに華為技術(ファーウェイ)、vivo(ビボ)、OPPO(オッポ)など各社の看板がどこにでもあります。韓国サムスン電子のスマホもハイエンドを中心に根強い支持はありますが、普及価格帯は中国勢に占められています。
 シャオミのEV参入のニュースを目にした際に、真っ先に思い浮かんだのが、中国メーカーが席巻するアジアのスマホ売り場でした。これと同様に、いずれはアジア各国の通りのあちこちで、シャオミなど新興メーカーの名前が付いた車を見かけることになるのだろうかと考えたのです。
 中国企業やスマホ関連企業のEV参入に関するニュースは東南アジアでも頻繁に目にするようになりました。例えば長城汽車は2021年にタイ市場で自社ブランドを立ち上げました。写真のような小型EV「ORA」など4モデルを投入すると発表しています。さらにバンコク・ポストの3月24日報道によれば、米ゼネラル・モーターズから買収したタイ工場で2023年までにバッテリーEVを生産する計画も進めています。
 スマホ勢では台湾の電子機器受託生産(EMS)大手の富士康科技集団(フォックスコン)が積極的に動いています。3月19日には、ベトナム初の国産車メーカー、ビンファストとEV生産で提携交渉を進めていると報じられました。実現すれば、フォックスコンはビンファスト向けにバッテリーや部品を開発、供給することになりそうです。
 もっとも、いずれのメーカーの取り組みもまだ始まったばかり、あるいは始まってもいません。EVの市場規模それ自体も東南アジアではまだ微々たるものですから、日本の自動車メーカーの牙城が容易に揺らぐことはないと思います。ただ新興勢力が虎視眈々(たんたん)と市場を狙っているのも事実。特に中国企業は各国政府にも積極的にアプローチしているようです。一方、日系自動車産業が集積するタイでは、日本の自動車メーカーと政府中枢との関係が薄れているという話も聞きます。手をこまぬいていては足をすくわれかねません。
(バンコク支局長 飯山辰之介)

(写真:NurPhoto/Getty Images)