「混乱が長引くことになりそうだ。嫌になってしまうね」。3月24日、タイの日系製造業の関係者がため息交じりにこうつぶやきました。この関係者の目の前にあるパソコン画面に映し出されていたのは「スエズ運河で大型タンカーが座礁」というニュースです。報道によれば、この事故により運河が塞がれてしまい、他の船舶が航行できなくなっています。原稿を執筆している26日の段階で復旧の見通しは立っていません。
 この事故により世界の物流が大きな影響を受けることは間違いありません。「『運賃2~3倍に』 コンテナ不足でアジアの製造業が悲鳴」で触れたように、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、世界をつなぐ物流網には既に大きな混乱が生じていました。詳細は記事をご覧いただければと思いますが、その影響は今も続いています。コンテナ輸送の運賃は高騰し、さらにコンテナ船の到着遅れが日常茶飯事になっています。
 そこに追い打ちをかけるように発生したのが、今回のスエズ運河での事故でした。ロイターの25日報道によれば、世界のコンテナの約30%がこの運河を通過して運ばれているそうです。このルートを避けるにはアフリカ大陸を迂回する必要があり、航海期間は1週間程度伸びるといわれています。物流は人間に例えれば血管のようなもの。どこかが目詰まりを起こせば、その影響は全身に及びます。コンテナ不足や海運スケジュールの混乱が世界的に深まることは避けられないでしょう。
 新型コロナの感染拡大に端を発する物流の混乱、製造業における基幹部品の不足、中国の急速な影響力の膨張によって引き起こされた政情の不安定化など、グローバルなサプライチェーンを揺るがす事態が相次いで起きています。さらに東南アジアでは、「最後のフロンティア」と呼ばれていたミャンマーでクーデターが起き、事業の先行きが不透明になってしまったことも日系企業を悩ませています。
 この国に拠点を持つある企業の幹部によれば、クーデターにより工場が稼働できなくなり、慌てて別の国の拠点で代替生産を始めることを余儀なくされたそうです。現状で再稼働の見通しは立っていません。治安が悪化したため、駐在員を緊急帰国させることも検討していると言います。
 進出していない企業にも影響は及んでいます。タイに比較的大規模な生産拠点を持つ別の企業は、ミャンマーに新たな拠点を作り、ここに一部の生産ラインを移管させることを検討していました。ただクーデターが起きたことで計画は白紙に戻っています。新たな拠点候補地を探していますが、「そもそも国境を越える複雑なサプライチェーンを構築すること自体が長期的に見て得策と言えるのかどうか、自信が持てなくなってきた」とこの企業の幹部は話します。
 もちろん、既存のサプライチェーンの在り方を見直す必要があると言っても、これに代わる妙案がそう簡単に浮かぶわけではありません。これまで緻密に構築してきたサプライチェーンを、いきなり大きく変えるような動きが出るとも思いません。ただ、この分野での新たな投資に対し、多くの企業はより慎重になっていると思います。その影響が近い将来、目に見える形で出てくるのではないでしょうか。
(バンコク支局長 飯山辰之介)

(写真 提供:Suez Canal Authority/AP/アフロ)