新型コロナウイルスの感染拡大を機に、東南アジア各国を気軽に訪れて取材することができなくなってしまいました。とはいえ現地関係者に話を聞かなければ仕事もままなりません。そこで重宝しているのがスマートフォンのメッセージアプリです。日本人関係者には電話やメールで連絡を取ることが多い一方、現地関係者に対してはメッセージアプリを利用した方が早く確実に返事をもらえます。
 悩みはアプリの多さです。フェイスブック・メッセンジャーにワッツアップ、LINE、ウィーチャット、バイバー、それにベトナム国産アプリのザロなど、いくつものメッセージアプリがスマホの中にひしめいています。「あの人とは以前、どのアプリで連絡を取り合っていたかな」と迷うこともあります。
 英調査会社ウィー・アー・ソーシャルによれば、ベトナムではフェイスブック・メッセンジャーやザロ、シンガポールやマレーシアではワッツアップなどに加え、中国テンセントが開発したウィーチャットも比較的使われているそうです。一方、支局のあるタイではLINEの存在感が圧倒的。プライベートなやり取りだけでなく、仕事関係の連絡でも頻繁に利用されています。名刺の代わりに取材先とLINEのIDを交換することも珍しくありません。
 なぜLINEはタイに定着することができたのでしょうか。同社の現地法人トップは「徹底的な現地化が奏功した」と話しています。タイの人々が好むスタンプの開発などは象徴的な事例です。「親しみやすいスタンプを用意したことで、スマホの文字入力に不慣れな人にも気軽にLINEでコミュニケーションしてもらえるようになった」と現地法人トップは指摘しています。
 日本に目を転じると、3月1日にLINEはヤフー親会社のZホールディングス(ZHD)との経営統合を完了させました。日本経済新聞のインタビューによれば、新生ZHDはタイを起点にアジア市場の攻略に力を入れ、現地ニーズにあった「ローカル路線」で新サービスを展開していくそうです。LINEのタイにおける成功体験やノウハウが、アジア戦略の一部となって生かされることになるでしょう。
 ただ、成長が確実視される東南アジア市場は世界の有力ネット企業が入り乱れる激しい競争の舞台になっています。タイに足場があるとはいえ、LINEが資本力のある米中ITの巨人や、細かなニーズをよく把握している現地企業と渡り合いながら、域内で広くユーザーを獲得していくのは容易なことではありません。
 市場を制するカギになりそうなのが有力企業との提携やM&A(合併・買収)です。東南アジアのネット業界では今、最大市場インドネシアを拠点とする配車大手ゴジェックと通販大手トコペディアの合併協議に注目が集まっています。ブルームバーグなどの報道によれば、トコペディアに出資するソフトバンクグループの孫正義会長兼社長がこの交渉を後押ししているそうです。ちなみにゴジェックはトコペディアとの統合交渉を進める前に、シンガポールを拠点に配車サービスで競合するグラブとの統合を模索していました。この交渉についても、グラブに出資するソフトバンクGの意向が働いていたとみられています。
 LINEもソフトバンクG入りを機に、東南アジアのネット市場における合従連衡のうねりに身を投じることになるかもしれません。少なくとも孫会長兼社長はLINEを巻き込んだ再編の青写真を既に描いているのではないでしょうか。近い将来、LINEの東南アジア事業を主語に勢力図を一変させるような再編のニュースが飛び出してくるのではないかと思っています。
(日経ビジネス バンコク支局長 飯山辰之介)

(写真:ロイター/アフロ)