【メルマガ独自解説】
 私が初めて熊本を訪れたのは高校3年の夏、テニス競技の全国大会に出場した時です。広大な自然に圧倒され、熊本が「火の国」と呼ばれていることも知りました。試合はあっさり負け、福岡・博多でラーメンを食べて帰郷しました。そんな思い出がある熊本が今、半導体受託製造大手の台湾積体電路製造(TSMC)の工場進出によって経済が熱を帯びています。
 2月13日号の特集「敗れざる工場 円安、経済安保で日本回帰」では現地を取材する際、ずっと考えていたことがあります。この活況を一時的なものにせず、TSMCなどで働く九州域外の人材に「ずっとここに住みたい」と思ってもらうには、九州全体が連携して受け入れ体制を整えなければならないということです。
 九州の大きさは台湾とほぼ同じ。自動車関連の企業も集積しており「カーアイランド」とも呼ばれ、半導体産業とも親和性があります。昔から九州経済界には「九州は一つ」というスローガンはあるものの、うまくまとまらず「実は、九州は一つ一つ」と皮肉られてきました。しかし今こそタッグを組み地域の産業を強くしていく好機かもしれません。
 今回、半導体産業で活躍する次世代人材の育成をしようと、長崎県の佐世保工業高等専門学校や福岡県の九州工業大学が半導体企業と連携していることを取材しました。こうした産官学連携が進んでいることも1つの希望です。
 特集では、最先端半導体の国産化を再び目指すラピダス(東京・千代田)発足までの経緯、日本経済が抱える問題、TSMC効果で沸く熊本、日本の工場を強くする方策などを紹介しています。
 日本の産業界は今、2つの好機を迎えています。1つ目は、工場進出などによる短期的な恩恵があること。2つ目は、円安などを背景に、国内で工場を新設する回帰の動きが相次ぐなか、中長期的に日本のものづくりを強くするためにどうすべきかを考える機会になっていることです。この特集が日本の製造業の在り方を考察する一助になれば幸いです。
(日経ビジネス記者 小原擁)