【メルマガ独自解説】

 今年は1月22日に迎えた旧暦の元旦。中華圏では春節として盛大にお祝いをしますが、ベトナムでもテトと呼ぶ旧暦の元日は1年の始まりとなる大きな節目の祝祭日です。

 このテト前に、現地で工場を操業している、とある日系企業が示した賞与の額がベトナム人の間でひとしきり話題になりました。ベトナムでは年越しに合わせて、テト賞与を支給する慣行がありますが、この企業が勤続1年未満の従業員に示した金額はわずか10万ドン(約540円)。従業員がストライキを起こしたことでニュースとなり、SNS上では多くのベトナム人が低すぎる賞与を非難しました。

 親日国とされるベトナム。今回の取材でも「対日感情はとても良い」「みんな日本のことを好きですよ」といった話を多くの日本人駐在員らから聞きました。ただし、当たり前のことではありますが、日本を好きだからといって、薄給でも構わないというわけではありません。

 日本が技能実習制度を始めてから間もなく30年になりますが、技能移転という建前で、安く使える労働力を多く受け入れたことで、生産性の低い企業や団体が延命し、産業の高度化を阻害してきた側面があります。そして今や、日本にいる技能実習生の過半を占めるベトナム人が、日本企業の支払いの渋さに厳しい目を向けるようになっています。

 働きやすい環境の整備に十分な報酬。きちんと働き手のために投資をすることのできない企業の居場所はもう新興国にもありません。そして、日本のこの30年を振り返れば明らかなように、人を安く使うことを前提にしたビジネスを続けていては、社会全体が停滞するばかりです。

 人手が貴重な世界において、いかなるビジネスモデルを描くのか。日経ビジネス2月6日号の第2特集「東南アジアにも「欠乏経済」が波及 人手不足、タイで深刻 製造業に自動化のうねり」が、読者の皆さんの想像力を広げる助けになれば幸いです。

(日経ビジネス記者 奥平 力)