【メルマガ独自解説】

 日経ビジネス1月9日号の第2特集「四半世紀かけて、難病克服の扉を開く エーザイの粘り腰 アルツハイマー病に一矢」では、エーザイが米バイオジェンと共同開発しているアルツハイマー病治療薬開発の話題を取り上げました。レカネマブという治療薬候補を18カ月間投与することにより、アルツハイマー病の進行を平均27%遅らせられることを大規模な臨床試験で示しました。

 エーザイは、この試験結果が判明するよりも前に得られていた試験結果などに基づき、既に米国で迅速承認制度による承認申請を行っており、1月6日までにその可否が判断される見通しです。つまり、このメールが読者の皆様の元に届いている頃には結果が判明しているわけですが、仮に米国で迅速承認されたとしても、公的保険の給付を受けながら広く使われるようになるには改めて本承認を受ける必要があると考えられています。エーザイは今回の大規模臨床試験の結果を用いて2022年度内に日米欧で承認申請するとしており、2023年内には世界各国で実用化されそうです。

 アルツハイマー型認知症の症状を抑えるタイプの薬はこれまでもありましたが、疾患の原因に作用してその進行を抑えるタイプでは、レカネマブが初めての薬となる見込みです。エーザイは、1997年にアルツハイマー型認知症の症状を抑えるアリセプトという薬を発売して以降、原因に作用するタイプの薬の研究開発に挑戦し、いくつもの失敗を重ね、四半世紀を経てようやく光明を見いだしました。

 ただ、失敗を重ねたのはエーザイだけではありません。米イーライ・リリーや米ファイザー、スイスのロシュなど世界の大手製薬が創薬に挑んできましたが、成功した医薬品はありませんでした。各社は脳内にアミロイドベータ(Aβ)というたんぱく質が蓄積することが引き金となってアルツハイマー病を発症するというAβカスケード仮説にのっとって創薬に取り組んでいましたが、失敗が相次いだことから、「Aβカスケード仮説は誤りではないか」という見方も出ていました。

 レカネマブの臨床試験結果によって、Aβカスケード仮説が誤りでなかったことが初めて実証されました。では、なぜ多くの企業が失敗を重ね、エーザイは臨床試験に成功したのか。第2特集ではそのポイントをまとめるとともに、レカネマブの実用化が、認知症の医療と、エーザイという会社に与える影響とを展望しました。エーザイのトップに就いて35年になる内藤晴夫代表執行役CEO(最高経営責任者)へのインタビュー「臨床試験データでプラットフォーマーに」も掲載しましたので、併せてお読みください。

(日経ビジネス編集委員 橋本宗明)