【メルマガ独自解説】
 今、日本企業の経営者に新たな勢力が誕生しています。大規模な企業買収をする一方で収益力の落ちた事業は祖業でも切り離す。テクノロジーを駆使して古い事業を一変させる。あるいは独自のビジネスモデルを創造して停滞した市場に新事業を生み出す……。2023年1月9日号の特集「 シン・ニッポンの経営者」は、思い切った改革ができず、遅いと揶揄(やゆ)され続けた日本企業の経営の姿を変え始めた新勢力に焦点を当ててみました。
 「実行力」で言えば、世界の工場の再編など大規模な構造改革に取り組んだブリヂストンの石橋秀一CEO(最高経営責任者)や日本製鉄の橋本英二社長らに目が向きます。一方、独自の「改革力」を見せるのが、1990年代末から2000年代にかけて欧米でMBA(経営学修士)留学などを経験し、さらに外資系企業で経営経験を積んだような世代です。いわば「米国流を体得した新世代」です。大型買収と低収益事業の売却など大胆な事業ポートフォリオの入れ替えを実行した旧昭和電工(23年1月からレゾナック・ホールディングス)の高橋秀仁社長はその代表格です。
 あるいは常識にとらわれず、ソフト市場に検査ビジネスという新事業を生み出したSHIFTの創業者、丹下大社長ら「独自の仕組みをつくる創造者」。欧米に比べて少なかった「博士号を持つ二足のわらじ型」経営者のAGC・平井良典社長らは、博士らしい課題設定で高い能力を経営に生かしています。
 こうしたシン・ニッポンの経営者の他にも、事業の思い切った入れ替えで100年企業を復活させたイビデンの青木武志社長らオールドニッポンの再生者も目立ってきました。これら新勢力に共通するのはリスクを取って、果敢に困難に挑戦する「個の力」を持つ経営者であることでしょう。今、ニッポンの経営は変わりつつあります。失われた30年からの脱却は遠くないはずです。
(日経ビジネス編集委員 田村賢司)