【メルマガ独自解説】
 「相手が何を考えているのかよく分からないけど、情報だけは伝わるから仕事はできる」。「脳トレ」で知られる川島隆太・東北大学加齢医学研究所長は、リモートワークの主役であるWeb会議システムをこう評します。直接会って話が盛り上がると、相対する2人の脳活動が同期していくけれども、オンラインだと全く同期しないとも言います。
 新型コロナウイルス禍の下で孤立・孤独感を強める人が増え、うつ病を発症するケースが数多く出てくる裏には、共感なき日常があるのでしょう。日経ビジネス10月10日号の特集「孤独が会社を蝕む リモート時代の幸福経営」は、孤立・孤独感を訴える人の増加をきっかけに取り組みました。政府の昨年末の調査では約43%が「時々」か「しばしば」孤独感を抱くと答えるなど、隠れた社会問題にさえなっています。そしてこれは産業界にとっても難題です。野村総合研究所の調査では、孤立・孤独を感じるとその約35%の人が仕事への意欲を低下させると答えているからです。
 原因を探ると、孤立・孤独感はコロナ禍以前から既に強くなり始めていたことも分かりました。2000年代に入る頃から本格化した成果主義などで上司と部下の関係が変わったこと、非正規労働者が増えたこと、ワークライフバランス重視など価値観が多様化してきたこと、そして非婚率の上昇などです。
 これに対して一部の企業は従業員間のコミュニケーションを改善し、お互いに深く知り合うことで人間関係を強くする動きに出ています。そうして従業員が幸せ感を高めることがむしろ生産性や効率にもつながるというのです。孤立・孤独問題から幸福経営へ。日本社会と産業界の新たな課題を考えてみました。
(日経ビジネス編集委員 田村賢司)