【メルマガ独自解説】
 「様々な事業が部署ごとにそれぞれリスク管理をしている。事業継続に必要な対策はしているので、あえて特別な組織を設けようとは考えていない」。6月初旬、記者がある大手素材メーカー首脳に、経済安全保障室のような組織の立ち上げを検討していないのかを尋ねた際の返答です。
 有事の際のサプライチェーン(供給網)寸断、海外からの産業スパイやサイバー攻撃など、経済安保上の脅威は多様化しています。そうしたリスクに対して、事業の経済的被害を最小限に食い止める様々な手段を企業は講じてきました。しかし、従来型のリスク管理で十分なのか、2022年5月に成立した経済安保推進法を踏まえて専門組織を設置すべきなのか、企業の判断は分かれています。
 専門組織を設置した企業でも、その権限や業務範囲は手探りです。経済安保の定義すらあやふやな企業も少なくありません。
 確かなのは企業は経済安保を無視することは難しく、経営戦略にどう組み込んでいくかが問われるようになったことです。日経ビジネス7月4日号の特集「経済安保とは何か 分断する世界で生き残る知恵」では、日本を襲う経済的脅威について取材しました。
 6月下旬には、中国、ロシア、インド、ブラジル、南アフリカの新興5カ国(BRICS)の首脳会議がオンライン形式で開かれ、連携強化や加盟国拡大が議論されました。急速に進もうとしている民主主義国家と権威主義国家との分断が、グローバルな自由貿易を前提にした経営戦略にどんな新たなリスクをもたらすのか、企業は注視しなくてはなりません。ぜひ特集をご一読いただければ幸いです。
(日経ビジネス記者 岡田達也)