【メルマガ独自解説】
 「表ざたになっていない業務上横領事件は多い」。ある弁護士はこう明かします。新型コロナウイルス対策の給付金詐欺が話題になっていますが、悪事は身近なところで発生しているのです。
 新型コロナ禍さなかの2021年、都内にある小売店の30代店長が、店舗の売上金5000万円以上を自身の口座に入金した横領が発覚しました。店長が弁護士に相談したため明るみに出ました。上場企業である会社は、店長に返金を求めていますが、刑事告訴はせず、内々に済ませようとしているとのことです。
 弁護士によると、店長は相談に来た際、「手にしたお金はギャンブルに消えた。なぜこのような不正をしたのか分からない」とうなだれていたそうです。
 人間は弱い――。私もそう思います。もし自動販売機の釣り銭口に、前の人が取り忘れた100円が残っていたらどうするか、私なら少し考えてしまうでしょう。
 日経ビジネス6月20日号の特集「不正につける薬 会社とあなたを救う5つの掟」では、こうした個人や組織的な悪事を未然に防ぐ対策を紹介しました。取材を通じて印象に残ったのは、次の言葉でした。「企業は、社員は弱いという『性弱説』に立たなければならない」。
 悪事を働いた者に社会が罰を与えるのは当然ですが、それと同時に、人間の弱さにも配慮できる社会であってほしいと願っています。
(日経ビジネス記者 小原擁)