【メルマガ独自解説】
 物価水準を加味した購買力平価ベースで見た日本の平均賃金は、この20年の間に0.4%しか上昇していません。米国はこの間、約25%上昇しています。日本はバブル崩壊後、長いデフレが続いていたので、賃金が上がらなくても特に不都合が出なかったことも関係していそうですが、原因はそれだけではないようです。なぜなら、この間企業の利益の蓄積、いわゆる内部留保は84兆円から484兆円と約6倍も積み上がっているからです。
 なぜ企業は、従業員に成長の果実を分配しないのでしょう。3月7日号の特集「漂流する賃上げ」では、賃金が上がらない要因を主に「人的資本を重視してこなかった企業」「日本経済全体を成長させる賃金水準を形成するパワーがなくなった労働組合」という2つの視点から考えてみました。
 人事評価に能力主義や成果主義を多くの企業が採用した結果、多くの労働者は「給料は自分の努力やスキルが反映された成果」と考えるようになりました。それは正しい部分もあります。ですが、社会全体の経済成長を考えると、いくら個々人が最適化を目指しても、それがマクロレベルでの賃金水準引き上げにつながるかは疑問です。
 「誰もが頑張れば報われる社会」を作るには、業種、職種を超えて労働者がまとまり、賃金交渉する必要があります。需給バランスで賃金水準を調整できる労働市場が発達していない日本では、なおさら労働者サイドから賃金水準を底上げする機運を高める必要があります。そして国は政策面でそれをサポートしていく必要があります。岸田文雄首相のように「賃上げしてほしい」と呼びかけたり、法人減税をしたりするだけではだめなのです。
 高い賃金は経営者を鍛えてくれます。高い人件費を払えるだけの利益を出そうと経営者は必死になるからです。その努力が経営の効率化や、産業構造の転換につながります。
 コロナ渦だから給料が低くてもしょうがないとあきらめていませんか? 本当は、あなたの給料はもっと上がっていいはずなのです。
(日経ビジネス記者 武田安恵)