【メルマガ独自解説】
2020年のノーベル化学賞を受賞した先端の技術である、「ゲノム編集技術」を利用して品種改良した食品の流通が日本で始まりました。2021年9月、種苗会社のパイオニアエコサイエンス(東京・港)は機能性成分「γアミノ酪酸(ギャバ)」の含有量を増やしたギャバ高蓄積トマトの販売を開始しました。水産ベンチャーのリージョナルフィッシュ(京都市)は、21年10月に肉厚にした可食部増量マダイ、11月には成長力を高めたトラフグの流通を開始しました。
それぞれ、ゲノム編集技術を用いて、もともとその生物が持つ遺伝子を働かなくすることで、高ギャバや、肉厚、高成長などの特徴を持たせることに成功しました。別の生物種などから取り出した外来の遺伝子を導入する遺伝子組み換えの技術とは異なります。そういうことを消費者が理解すれば、抵抗を感じないのではないか、とする声もあります。
ゲノム編集した食品に表示義務は設けられていませんが、現在のところ国に届け出を行った企業は、インターネットのみで、「ゲノム編集食品」と分かる形で販売しています。「ゲノム編集技術を理解し、進んで食べてくれる人に食べてもらう」というのが、取り扱う企業側のスタンスのようです。
ただ、将来的に食料、特にたんぱく質の不足が懸念される中、品種改良のためのゲノム編集技術の重要性が高まるのは間違いなさそうです。日本では遺伝子組み換え食品に対する消費者の拒否反応が強く、「遺伝子組み換え」と表示した食品をほとんど見かけることはありませんが、新しい技術を頭ごなしに否定するのではなく、まずはその内容やリスクを正しく理解することが大切だと思います。
日経ビジネス2月14日号の第2特集「トマト、マダイ、トラフグ……ゲノム編集で品種改良し市場へ」では、ゲノム編集食品の流通に挑戦している企業の動きを中心にまとめました。
(日経ビジネス編集委員 橋本宗明)
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