【メルマガ独自解説】
 「こんな店名を付けてしまって店主はさぞ後悔していることだろう」。この数カ月間、米ニューヨークにある自宅近くの格安ピザ店の前を通るたび、こんなことを考えていました。店の名は「99セント・フレッシュ・ピザ」。チーズだけが載った「チーズ・ピザ」のスライス1枚を1ドルで販売する店で、低所得層を中心とした働き手や学生、観光客などに人気を博してきた「ニューヨーク名物」です。スライス2枚に缶飲料が1つ付いた2ドル75セントのセットメニューは、ホームレスの人たちが小銭でおなかを満たせる「命綱」でもありました。
 記者の“予感”が的中したのは2021年末が迫ってきた頃。同チェーンを展開する経営者が「値上げをするかもしれない」と地元紙に話し、「ニューヨーク名物の格安ピザがインフレの最後の餌食に?」と地元民をざわつかせることになったのです。
 米国では今、驚異的なインフレが消費者を苦しめています。同年12月の米消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率は7.0%に達し、39年半ぶりの高水準を記録しました。新型コロナウイルスの封じ込めに失敗し、国内で批判が集まるバイデン米政権。インフレを止められなければ国民の不満が爆発し、窮地に立たされるでしょう。日本も決してひとごとではありません。米政権の権力が弱まれば、国際社会はますます荒れることになります。現在のウクライナ情勢を見ても米国の抑止力低下は顕著です。
 日経ビジネス2月7日号の第2特集「『インフレーション・ドミノ』 押し寄せる価格上昇の波」では、世界の高インフレの「リアル」を米、欧、アジアの支局から伝えています。世界情勢のこれからを予測するためにもぜひご一読ください。
(ニューヨーク支局長 池松由香)