【メルマガ独自解説】
 「年金は月に10万円足らず。アパート暮らしだから家賃もあるし、生活するのが精いっぱい……」。東京都内に住む71歳の女性はこう言ってうつむきました。今、こんな高齢者が増えています。1985年に約23%だった高齢者(65歳以上)の相対的貧困率は、その後少しずつ低下しましたが、2012年を底に反転し、18年には再び約20%に上がってきました。その要因は、高齢単身者の増加と年金が生活を支える力を弱めてきたことがあります。高齢の単身世帯は00年に308万でしたが、19年には736万に急増しています。そのうち、年収200万円未満の層は男性で50.5%、女性は68.8%に上ります。その収入の約6割は公的年金です。
 年金額が低いのは、年金の加入期間が短かったり、現役時代の所得が低かったり、と様々な理由がありますが、既に低年金にあえぐ人は珍しくないのです。年金が1人分しかない単身者は特にそうです。しかも、今後、1990年代半ばから2000年代前半までの雇用環境が厳しかった頃に社会へ出た就職氷河期世代が、同じような低年金に苦しむ可能性があります。低年金と高齢者貧困は、現役世代にも関わる大きな問題なのです。
 それだけではありません。公的年金維持のために国が04年に導入したマクロ経済スライドという仕組みが、全加入者共通の基礎年金を大幅に減らすと予測されるからです。同スライドは、高止まりした今の公的年金を抑制し、将来世代の給付を下げすぎないようにするものですが、日本経済の停滞の中でうまく機能しませんでした。その影響で基礎年金は25~三十数年後には約3~4割減になる恐れが出てきたのです。
 2月7日号の特集「低年金サバイバル あなたにも迫る老後格差」では、既に起きている低年金危機の実態と、将来のさらなる年金減の時代を徹底的に分析しました。基礎年金の減少については、独自の試算を行い、具体的な年金額も示しました。特集では、高齢になっても働き続けることを含め、個人と企業が始めた対策を紹介し、「年金だけの改革」ではない長期の対応策も考えました。
(日経ビジネス編集委員 田村 賢司)