【メルマガ独自解説】
 組織を刷新するような革新的アイデアを上司や同僚に説明する場面を想像してみてください。誰も見たことも、聞いたこともない概念はどれだけ丁寧に解説したとしても、十分な理解を得ることは難しいでしょう。説明の一部が曲解されて批判される恐れもあります。周囲から理解されない苦しさは変革に挑む人間の熱意を萎ませます。結果、古い体質の組織は代謝機能が低下し、時代の波に取り残されていくでしょう。前田建設工業専務の岐部一誠氏が挑んだのは衰退へ向かう空気への抵抗でした。
 前田建設工業は10月1日に前田道路、前田製作所と経営統合して共同持ち株会社「インフロニア・ホールディングス(HD)」に移行します。新社長に就任する岐部氏は20年も前から建設の請負業務に縛られず、民間企業が公共インフラを運営して収益を上げる「コンセッション」の拡大を説いてきました。職人気質が多い前田建設グループ内では、「サービスで稼ぐ」という考え方は邪道。世間を騒がせた前田道路へのTOB(株式公開買い付け)が“敵対的”になったのも無理解から生じたと言えます。
 9月20日号ケーススタディー「前田建設持ち株会社の新社長、『脱請負』へ反対勢力と20年の闘い」では岐部専務に焦点を当て、彼がどのように会社を変えてきたかを紹介しています。「闘い」とタイトルに入れましたが、岐部専務はケンカをいといません。ただ、何度かインタビューをするうちに、こわもてが岐部専務の本質ではないと感じました。「根気」と「のんき」。その2つの絶妙なバランスがインフロニアHDの誕生につながったように思います。
(日経ビジネス副編集長 江村 英哲)