【メルマガ独自解説】
 2020年10月に菅義偉首相が宣言した50年までに「カーボンニュートラル(炭素中立)」を実現するという目標は、日本の産業政策の大きな転換点になる可能性があります。
 あらゆる経済活動で生じる温暖化ガスを、実質ゼロにするのは極めて困難な挑戦だと、専門家は口をそろえます。これまで国が定量的な目標を産業界に課す場合、各業界と入念にすり合わせ、達成が確実と見込める目標値を設定する「予定調和型」の政策運営が主でした。しかし、今見通せる技術や社会的条件を積み上げる発想だけでは、炭素中立は実現できません。
 そこで菅政権は、「将来のあるべき姿」を定め、そこから逆算して、いつまでに何をしなければならないかを考える「バックキャスティング型」の政策運営へと大きくかじを切りました。環境政策で先行する欧州が実践してきた手法です。
 イノベーションが起きる可能性を信じ、失敗を恐れず、時にはリスクマネーを投じ、未来志向で行動する。脱炭素への挑戦は、長い低成長の中で、日本人が忘れかけていた気概を取り戻す好機なのかもしれません。
 「チャレンジして失敗を恐れるよりも、何もしないことを恐れろ」。ホンダ創業者、本田宗一郎氏の戒めが思い起こされます。特集「2050年目標の理想と現実 脱炭素は本当に可能か」では、我々の前に立ちはだかる高い壁の実相と、その乗り越え方を考えます。
(日経ビジネス記者 吉岡陽)