『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』という本がつないだ不思議な縁により、著者のブライアン・ハリガンさん、デイヴィッド・ミーアマン・スコットさんと監修・解説を担当した糸井重里さんが6年ぶりに再会。HubSpotというボストンに本拠地があるマーケティング企業を経営するブライアンさんが、この6年間で起こった思いもよらないこととは一体なんでしょう? 鼎談第2回です。

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糸井:こうして6年ぶりに会ったわけですが、この6年間に起こった、「これは考えてもいなかったぞ」ということがあれば教えてください。

ブライアン:1つ、すごく驚いたことがあります。6年前は、創業メンバーが社内に8人いました。そのうち今、何人が一緒に働いていると思いますか? なんと、1人だけです。立ち上げの時期に必要な人材と、会社がある程度成長してから活躍する人材は異なる、ということを知りました。それは決してその人の能力が不足しているということではなく、必要とするものが変わってしまうんです。

糸井:ブライアンさんは、創業メンバーをバンドメンバーのようなものだと思ったのですか。

ブライアン:Totally yes!(そのとおり!)歳をとっても変わらない、ロックバンドみたいなものだと思っていました。でも、違ったんですね。

糸井重里(いとい・しげさと)
1948年生まれ。コピーライター。「ほぼ日刊イトイ新聞」主宰。広告、作詞、ゲーム製作など多彩な分野で活躍。1998年にウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」を開設し同サイトの活動に全力を注ぐ。(撮影=鈴木愛子、以下同)

デイヴィッド:創業の時と会社を大きくする時では、求められる能力が変わる。それは、CEOのブライアンにとっても当てはまること?

ブライアン:もちろん会社のステージが変わるにつれて、自分自身の問題も見えてきましたよ。だから、オペレーションの責任者としてCOOを迎え入れ、自分自身もエグゼクティブ・コーチを雇ってトレーニングを始めました。エグゼクティブ・コーチというのは、経営者がやるべきことを教えてくれる人です。

 会社を始める時には「長所」だった性質が、成長してからは「短所」になってしまうことがあるんですよね。創業時は私がすべてをコントロールして、決断もすべて下していました。でも会社が大きくなるにつれて、それはマイナスになりました。

デイヴィッド:ぼくが傍からブライアンを見ていて気がついたことがあります。創業したての頃は会社について何を聞いても、すぐに答えられていた。でも今は、「この部署で何が起きているの?」と聞いても「わからない」「知らない」と答えるようになりました。2、3年前まではそれにフラストレーションを感じていたようですが、今は「知る必要がない」と悟ったように見えます。

経営はゴルフと同じ「レッスンが必要」

糸井:求められる能力が変わっていることに、気づかないままの社長もたくさんいるでしょうね。ブライアンさんの視点がすごい。インターネット・ネイティブではない自分を主役に置かないで、社員が活躍できるよう考えている。自分が自分がと前に出るのではなく、客観的に自分の役割をコントロールしているように見えます。どうしてそんなことができるんでしょうか。

ブライアン・ハリガン(Brian Halligan)
ハブスポット(HubSpot)の共同創業者でCEO。2014年にニューヨーク証券取引所に上場。1992年にアメリカのソフトウェア会社PTCの日本支社を創立するために来日し、大きく成長させた。在日中は東京の等々力に住む。『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』以外の著書に『インバウンド・マーケティング』(すばる舎)がある。

ブライアン:うーん、なんでしょうね……ああ、経営だからって特別なわけじゃなくて、ゴルフと同じなんです。私にゴルフの先天的な才能はありません。だからレッスンを受けて、まあまあのスイングができるくらいまでにはなった。それに対しては、たくさんのお金と時間を費やしています。

 経営におけるリーダーシップも同じです。生まれつきの才能はないから、それをコーチングで一生懸命学んでいる。自分の生まれ持った性格としては、すべてをコントロールしたいんですよ。でも努力してその気持ちを抑えようとしている。その成果として、「知らない」と答えられるようになりました。

糸井:自分を「こうあるべきだ」というところにちゃんとはめて、動いてらっしゃいますよね。

ブライアン:改善しよう、向上しようと思っています。CEOになるのも初めてですし、大きな会社を経営するのも初めての経験ですから。できないんだったら、努力しないと。