ブライアン:そうかもしれません。でも、アメリカはイギリスに対して謀反を起こすようなかたちで独立をしたわけですよね。ですから、HubSpotより建国の父たちのほうが……。

糸井:大変だったでしょうね(笑)。

ブライアン:HubSpotはもっと楽しいですから(笑)。

糸井:独立宣言が読み上げられたのも、HubSpotが生まれたのもボストンだ、というところがおもしろい偶然です。頭のなかにたとえ話があって、それをモデルにして物事を進めていくのは多くの人がやっていることですが、まさかアメリカの歴史がそのままHubSpotの歴史だとは思わなかった。

ブライアン:Sure!(大きくうなずく)

糸井:グレイトフル・デッドも、1つのお手本だったわけですよね。ユニークなやりかたでうまくいっているバンドがいる、だったらあれやってみたらいいじゃない、という方法をまとめたのが『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』です。だから、HubSpotは冒険をしているように見えるけれど、成功例があることをやっているとも言えるわけですね。

ブライアン:成功例を組み合わせて、人々が思いつかないことをやる。それがイノベーションですよね。スティーブ・ジョブズがまさにそういう人でした。インドの文化、日本の禅、ペプシ・コーラ、テクノロジー……そうしたものすべてにインスピレーションを得て、iPhoneを生み出した。それと似たような感じです。彼はすごく日本の影響を受けていますよね。

糸井:おふた方には、かつて日本で働いていたという共通点があります。自分たちと日本との関わりを、今も感じることはありますか?

デイヴィッドさんと奥さんの渡辺由佳里さん。
デイヴィッドさんと奥さんの渡辺由佳里さん。

デイヴィッド:(この日、通訳を担当していた隣にいる妻・渡辺由佳里さんの肩に手を置いて)これかな。日常的に、すばらしい日本のプロダクトだと感じています(笑)。

 私が日本に来たのは26歳のとき。ウォールストリートの会社で働いていたところ、東京オフィスを開設するというチャンスがやってきたので、そのために1人で日本にやってきました。

 東京には、自分が知らなかった大きな世界がある。Oh my God! と思いました。これまでにはない大きなことができるんじゃないか、という可能性に気づきました。また、日本で気づいたことがもう1つあります。それは仕事だけでなく、自分の人生についても自分の手でデザインしていくことが大切なんだということ。妻との出会いも含めて、僕の人生にとって日本は大切な存在です。

「小錦」ではなく「寺尾」になりたい

ブライアン:デイヴィッドはもう、ほぼ日本人なんですよ。普通アメリカで6時にディナーに招くと、たいていの人は6時半に来る。デイヴィッドは、6時1分前に来ますからね。日本人っぽいでしょう(笑)。

 私は1993年頃に日本に住んでいました。当時インターネットはまだ普及しておらず、いつも日本のテレビ番組を観ていたんです。日本語がむずかしく、多くの番組は理解できませんでしたが、唯一わかったのが相撲中継。私が最初に観た取組は、「小錦」対「寺尾」でした。あまりの体格差に、私は寺尾がこてんぱんにやられると思ったんですよ。ちょっとその時の取り組みを再現しますね。

小錦vs寺尾を実演するブライアン。
小錦vs寺尾を実演するブライアン。

(前に出て相撲の取り組みの実演をする)

ブライアン:最終的には……Pushed the giant man!! 小柄な寺尾が勝ったんです!

糸井:まさか! と思ったわけですね。

ブライアン:ここから私はインスピレーションを受けました。寺尾のように小さなものが、小錦のような大きなものに勝つ。その手助けを、インターネットでやろうと。それが、HubSpotの原型です。

糸井:うまいこと言うなあ!(笑)

(次回へ続く)

構成:崎谷実穂