糸井:企業文化をつくるには、お金も労力も、意識的に投下しないといけません。しかも、続けていかないと意味がないですよね。

ブライアン:じつは、会社をつくってから2年くらいは、「企業文化」という言葉を聞くたびに「うわー、やめてくれ」と思っていたんですよ(笑)。企業文化ってなんなのかよくわからなかったし、精神論みたいでちょっと敬遠していたんです。でも2つのことから、考えを改めました。1つ目は、社員に「自分の友だちにどのくらいHubSpotで働くことを勧めますか?」「その理由はなんですか?」と質問したことです。驚いたことに、みんなHubSpotで働くことを勧めると答えたし、理由で一番多かったのが「企業文化が好きだから」だった。CEO自身は「企業文化とかやめてくれ」と思っていたのに(笑)。

糸井:(笑)。

CEOがいないときに他の人が決断できるかどうか

ブライアン:もう1つは、ボストンでさまざまな企業のCEOが集まる会議があり、そのときのテーマが「企業文化」だったんですよ。また私は「やめてくれ……」と思っていました。でもそこで、私が惚れ込んでいる、掃除ロボット「ルンバ」で有名なアイロボット社CEOのコリン・アングルが、「企業文化というのは、CEOのあなたがそこにいない時に他の人が決断できるということなんだ」と言ったんです。そこで私は企業文化というものの存在意義が腑に落ちました。そして、「カルチャーコード」、つまり企業文化の条文をつくることにしたんです。

「ほぼ日」オフィスにて。
「ほぼ日」オフィスにて。

糸井:企業文化の条文。

ブライアン:お手本にしたのが、アメリカの独立宣言や合衆国憲法でした。トーマス・ジェファーソンやジョン・アダムズ、ベンジャミン・フランクリンなどの建国の父たちがつくったものです。

糸井:ああ、なるほど。それなんとなく、わかります。

ブライアン:独立宣言が採択された1763年当時、建国の父たちが目指していたのは、いろいろなバックグラウンドを持つ人たちを完璧に団結させるということでした。そして、私たちが目指しているところも同じです。

 インターネットの時代になり、顧客と社員、それから社員と会社の関係が変わりました。そして、今も変わり続けています。そういうことを念頭に置いて、カルチャーコードをつくったんです。憲法のように条項の改定はありえます。その改定案は、みんなで話し合ってつくればいい。でも、大本になる憲法はそう簡単に変えません。このカルチャーコードは、四半期に一度見直しています。そうした部分にかける全社的な努力の量は大きいと思います。そしてカルチャーコードは一般公開していて、これまでに200万回ダウンロードされているんですよ。

糸井:アメリカという国の成り立ちと相似形になっているのですね。利害を異にするさまざまな人種が集まってできた国でしょう。アメリカ以外の国の人達は、あの実験的な国家がどうなるのか、応援する気持ちと大丈夫かなという心配な気持ちの両方をもって注目していたと思うんです。だから、アメリカはある種の演劇空間のように、見られているという緊張感を持って、がんばらなきゃと思っていたから伸びていったんじゃないでしょうか。HubSpotも、そうやって外から見られながら、実験的なことをやって成功してきたわけですよね。

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