糸井:6年前も、「今日のダーリン」について聞かれたのを覚えています。あの時とは違う意味で、“just now”に興味があるから、もう一度おっしゃっているんですね。当時は「なぜアーカイブを残さないのか」と聞かれて、「ぼくがそうしたかったから」と答えたのですが、言われてみればデイヴィッドさんが解説してくださったとおりの意味があるんだと思います。

デイヴィッド:100人のマーケティング担当者がいても、そのうち99人は、次の1週間や1ヶ月後のことを考えています。100人のうち1人ぐらいだけが「今」に集中して、即時性のあるマーケティングをやっている。何がその人にそうさせているのかを学ぶことによって、他の人も真似できるようになる。だから、なぜ糸井さんが「今」を大事にできているのか興味があるんです。

糸井:最近のミュージシャンが収益の中心をCDからライブに移し始めているのも、1回だけの「今」を仕事にしているわけですよね。そうやって1回1回を積み重ねている。一方で「今日のダーリン」は毎日消えていくけれど、見た人がコピーをとっておいたら消えないんです。受け手が大事だと感じたものを残していく仕組みになっているんだと思います。

「今」に価値があることに気づくマーケッターは1%

デイヴィッド:グレイトフル・デッドもそうですね。彼らのライブは即興演奏も多く、奏でた瞬間に消えていくけれど、録音を自由にやらせていた。そのテープはいまだに残っていて、30年前、40年前の音源も聴き継がれている。現在のサービスだと、Snapchatがそれに近いコンセプトかな。10代、20代に人気のSnapchatというチャットアプリは、投稿した写真や動画が一定時間たつと消えます。ログが残らない。でもそれがすごく人気なんですよね。

糸井:若い人はそういうサービスを使いこなしているんでしょうね。ぼくが6年前にHubSpotへ行って一番おもしろいと思ったのは、ブライアンさんが「自分はインターネット・ネイティブではない」という自覚を持ちながら、インターネットとともに育った若い世代が自由に力を発揮できる職場をつくろうとしていたことです。そこにかけるコスト、努力が並大抵のものではなかった。その方向性が正しかったからこそ、今1500人もの社員が、そしておそらく質の高い人が入ってきているんじゃないかと思うんです。

<b>ブライアン・ハリガン(Brian Halligan)</b><br /> ハブスポット(HubSpot)の共同創業者でCEO。2014年にニューヨーク証券取引所に上場。1922年にアメリカのソフトウェア会社PTCの日本支社を創立するために来日し、大きく成長させた。在日中は東京の等々力に住む。『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』以外の著書に『インバウンド・マーケティング』(すばる舎)がある。
ブライアン・ハリガン(Brian Halligan)
ハブスポット(HubSpot)の共同創業者でCEO。2014年にニューヨーク証券取引所に上場。1922年にアメリカのソフトウェア会社PTCの日本支社を創立するために来日し、大きく成長させた。在日中は東京の等々力に住む。『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』以外の著書に『インバウンド・マーケティング』(すばる舎)がある。

デイヴィッド:それが成功して、HubSpotの社員は自分の働く会社は最高だ、と思っているんです。それは、社員が匿名で企業を評価できるGlassdoorという口コミサイトを見ればわかります。このサイトには、CEOの評価や会社の雰囲気、給料のことなどが赤裸々に書かれている。そこでもHubSpotは高く評価されています。

ブライアン:多くの会社はユニークな製品をつくり、それで競合に勝って顧客を集めようとしている。でも、そもそもその製品をつくるのは社員なんです。だからまずは、ユニークな製品をつくれる人を魅了するカルチャー、良い社員が育つカルチャーを醸成することに力を入れるべき。でも、そうしている会社はあまりないですね。

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