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白井さゆり
慶応義塾大教授・元日本銀行審議委員

元日本銀行審議委員で慶応義塾大学教授の白井さゆり氏は、2019年に暗雲垂れ込める世界情勢を予測する。米中の貿易摩擦や中東情勢、欧州の不安定化といったリスクから描かれるのは、確実に来る「経済成長が減速する未来」だ。

 2019年は懸念していたリスクが顕在化し、世界の経済成長の減速が明らかになります。18年はアメリカの成長が強く、経済成長率は17年とほぼ変わりませんでした。それがいよいよ減速期に入ります。景気後退とまでいきませんが、勢いが落ちたと皆が実感することでしょう。

元日本銀行審議委員で慶応義塾大学教授の白井さゆり氏(写真=陶山 勉)

 成長鈍化を下振れさせるリスクには、アメリカの貿易、中東情勢、欧州の不安定化、金融政策があります。

 米国の貿易問題は日本にとって厳しくなるでしょう。米中の貿易戦争・技術競争が続くと、米国は他の大幅な貿易赤字国との交渉で有利な条件を勝ち取ろうとするからです。米国にとって貿易赤字国の常連であるカナダとメキシコとは交渉が終わっていて、交渉相手は継続中の中国のほか、残る相手はドイツと日本です。ドイツとは欧州連合(EU)との交渉になるため、加盟国が多く交渉が簡単ではないとすると、もう日本しかありません。

 トランプ米大統領は16年大統領選挙に関するロシア疑惑と交際相手の女性への口止め料などで議会による弾劾の可能性もあり、米国内で支持率を回復するためにも一層国外を叩く姿勢を強めています。中国との交渉は貿易関税だけでなく、知的財産権や強制的技術移転などにも及びます。中国のAI(人工知能)などの技術力の進歩は目覚ましく、軍事転用の恐れから国防省や議会では超党派で懸念を深めており、対立は終わりません。米中の対立は世界景気を下押しするでしょう。

 それに加えて、日米の自由貿易交渉は日本にとって厳しくなります。日本はモノの貿易としていますが、米国側はサービスなどを含めて農業解放、自動車の輸入枠設定、中国との貿易交渉を阻害する「毒薬条項」を突きつけてくるはずです。

中東が大きく割れる

 第2のリスクは、トランプ大統領のスキャンダルにも関連する中東情勢です。サウジアラビアはカショギ氏の殺害問題の人権的批判だけでなく、イエメンの戦争を悪化させたとした批判も集まっています。しかし、サウジ国内ではそうした報道は一切ありません。ムハンマド皇太子は石油収入依存からの脱却への取り組みや女性の自動車運転解禁など、国内では若い世代を中心に強く支持されています。

 一方、カタールとの断交やイランとの対立関係などは悪化しています。これまで湾岸諸国は政治的には一枚岩のような存在でしたが、ここに来て大きく分断しています。私もカタールに行って知りましたが、現地の人々はカタールとサウジとの断交は永続すると考えているほどです。