
三洋電機出身者らが立ち上げた家電ベンチャー・シリウス(東京都台東区)が隠れたヒットを生んでいる。掃除機に取り付けることで、ソファやカーペットなどを水で丸洗いできる掃除機ヘッド「スイトル」だ。スイトルは、掃除機の吸引力を利用してノズルから水を噴射し、浮き上がった汚れを水と一緒に吸引する。この複雑な技術を考案したのが、広島県福山市に住む川本栄一氏だ。食品メーカーに勤める傍ら、趣味で発明を続けてきた。
今年16回目を迎えた「日本イノベーター大賞」(主催:日経BP社、協賛:第一三共)の受賞者の素顔を紹介する連載の第2回は、優勝賞の川本氏。スイトルのアイデアを思いついた経緯などについて聞いた。
(聞き手は、内海真希)
<表彰式に読者の皆様を無料でご招待>
表彰式は12月5日(火)午後5時から「コンラッド東京」(東京都港区)で開催いたします。観覧ご希望の方は、以下のURLからご応募いただけます。定員(200人)に達し次第、締め切らせていただきます。
http://business.nikkeibp.co.jp/innovators/


(写真:山下裕之、撮影協力=二子玉川 蔦屋家電)
「スイトル」はそれ自体に駆動力はなく、掃除機の吸引力を利用したものですね。スイッチを切り替えると、本体内部のターボファンが回転して、ノズルから水が噴射され、カーペットやソファの汚れの上を滑らせると、浮き上がった汚れが水と一緒に吸引される。なんとも複雑な仕組みです。
川本栄一氏(以下、川本):鍵となるのは、水と空気を完全に分離する「逆噴射ターボファン」です。2枚の特殊なファンが高速回転することで、噴射するきれいな水と吸い上げる汚水が混ざるのを防いでいます。
開発した後、特許の申請準備をしている中で、水を使った「湿性掃除機」や「水フィルター掃除機」が既に存在することを知りました。でも、それらは水が浸み出してしまって、部品を劣化させる原因になっているようでした。
先行技術を知っていたら、かえってアイデアを思いつかなかったかもしれません。逆噴射ターボファンは、日本、中国、米国で特許を取得しているので、「世界初」と言っていいのではないかと思います。
![<span class="fontBold">[かわもと・えいいち]</span><br /> 1943年生まれ。食品メーカーに勤務する傍ら、趣味で発明を続ける。失業中に開発した水と空気を分離するファンなどが、旧三洋電機出身者が起業したベンチャー企業の目に留まり、カーペットやソファを水洗いできる掃除機ヘッド「スイトル」として商品化した。(写真:下川高広、以下同)](https://cdn-business.nikkei.com/atcl/interview/16/112200024/112200002/p2.jpg?__scale=w:500,h:333&_sh=0b70fc0a20)
1943年生まれ。食品メーカーに勤務する傍ら、趣味で発明を続ける。失業中に開発した水と空気を分離するファンなどが、旧三洋電機出身者が起業したベンチャー企業の目に留まり、カーペットやソファを水洗いできる掃除機ヘッド「スイトル」として商品化した。(写真:下川高広、以下同)
そもそも、なぜ「水で掃除する」という製品を発明しようと思ったのですか。
川本:きっかけは30年ほど前に遡ります。妻の父が病気になり、家族が交代で介護していました。義父はオムツを着用していたのですが、病気が進むにつれ認知機能が低下し、オムツの中に手を入れてしまって、寝具や床を汚してしまうことがたびたびありました。
その汚れを落とすのが本当に大変そうで。「何とかできないものか」と思っている中で、掃除機のように排泄物を吸い込んだらいいんじゃないかと考えたのが始まりです。
発案は30年も前だったのですね。
川本:残念ながら試作品が完成する前に義父は亡くなってしまいました。それから試作をすることもなく、約10年がたってしまったのですが、55歳のとき、勤務先の食品メーカーを早期退職支援制度で去ることになりました。眠っていたアイデアが再び目覚めて、妻にお願いしたんです。「最後のチャンスをくれないか。これで無理だったら再就職するから」って。それで、失業保険金が給付される10カ月間、研究に没頭しました。
その間に、逆噴射ターボファンを開発した。
川本:その技術に興味を持った家庭用機器メーカーから声がかかり、東京で再就職しました。メーカーに勤務している間に、押し当てると水が噴射され、離すと噴射が止まる特殊なノズルなどを開発しました。そのノズルはスイトルだけでなく、大手自動車メーカーにも採用され、今も中古車のシート清掃に使われています。
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