緩まないネジを発明した、ネジロウ、道脇裕社長の軌跡を辿る連載5回目。会社設立後、資金繰りやパートナー探しに難航するも、数々の賞を総なめにし「緩まないネジ」の技術力の高さを証明する。2000年のネジの歴史を変えた男の躍進が始まる。

連載1回目:「小学校“中退”の発明家はこうして生まれた」。
連載2回目:「学校は『量産型ロボット生産ライン』」。
連載3回目:「ルパン3世みたいな事故から生まれたネジ」。
連載4回目:「“孤島”から僕を救い出してくれた人たち」。

会社設立の資本金は道脇氏のポケットマネーの200万円。設立当初から、初期の最重要課題として「緩まないネジの規格化」を目指していた。

道脇:ある大学教授の勧めもあって「MITエンタープライズフォーラム(現MITベンチャーフォーラム)」というビジネスプランコンテストに応募することにしました。会社立ち上げの直前でしたので何の準備もしておらず、文字通りゼロからのスタートです。それでも、技術コンテストではなく「ビジネスプランコンテスト」なので、緩まないネジ「L/Rネジ」を事業化して行く構想をしっかりと伝えることができれば良いところまでいけるのではという目算と、ビジネスプランを改めて検討する良い機会だと思い挑むことにしました。

 ペーパー審査を通過し10チームほどに絞られると、1チームにつき2~3人のメンターが配置されました。最終審査に向け、メンターと一緒にビジネスプランをブラッシュアップしていくという独特のスタイルで進行するのがこのコンテストの特長です。最終審査は会社を立ち上げた翌月。400人くらいの前で制限時間の10分間、緩まないネジのビジネスプランについてプレゼンテーションを行いました。

社名の「ネジロウ」に込められた意味

道脇:僕は当初から、この事業を進める上での初期の最重要課題がネジの規格化だと考えていました。もともと「ネジロウ」という社名も、新たなネジの法則体系、つまり「ネジ」と「Law」を組み合わせた単語です。緩まないネジの構造は、従来の螺旋構造のネジとは異なります。規格化をしなければユーザーも使いにくく、世の中に広く普及しないと思っていたからです。

緩まないネジ「L/Rネジ」の基本の仕組み。従来のねじは、メートルねじ規格として体系化され、呼び径(mm単位の呼びの直径)に合わせて「M16」のように表記されていた。いわば、「M規格」。道脇氏は、これになぞらえて緩まないネジ(L/Rネジ)の体系を「N規格」と名付け、新たな体系を構築しようと構想していた。(写真:ネジロウのHPより)
緩まないネジ「L/Rネジ」の基本の仕組み。従来のねじは、メートルねじ規格として体系化され、呼び径(mm単位の呼びの直径)に合わせて「M16」のように表記されていた。いわば、「M規格」。道脇氏は、これになぞらえて緩まないネジ(L/Rネジ)の体系を「N規格」と名付け、新たな体系を構築しようと構想していた。(写真:ネジロウのHPより)
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 ビジネスプランコンテストでは、規格化の戦略について詳しく説明しました。事実上の標準である「デファクトスタンダード」の軸と、業界標準の「デジュールスタンダード」の軸という2軸を使ったグラフを作成し、時間軸を斜めに進行させるという独自の表現です。当時の構想では、2020年頃にL/Rネジの基本的な業界標準規格が出来上がる計画で、そのためには2016年辺りに社内規格ができていなければならないと考えていたのですが、先日L/Rネジの社内規格化を達成しています。当時描いていたスケジュール通りに進んでいると思います。

VCからの出資申し出を全て断る

道脇:結果、コンテストでは最優秀賞のほか、同時受賞可能な全ての賞を受賞することができました。ネジという地味で基礎的な商材でありながらも、非常にたくさんの方に評価していただくことができたのです。ただ一つ残念だったことは、毎年設定されていた優勝賞金がリーマンショックの影響もあり、この年はゼロだったということです。

 とは言うものの、コンテスト後は複数のベンチャーキャピタル(VC)から出資したいと申し出をいただきました。実用化に向けた基礎的な研究開発のための資金は喉から手が出るほど、いえ、胃から手が出るほど必要だったのですが、これらの申し出は全て丁重にお断りしました。日本のVC資金と基礎研究とが相容れないと解釈していたことや、中立的カラーへの拘り、自主独立の精神が当時の心中にあったためです。外部資金を入れず、例え亀のようでも独立独歩で進んでいこうと考えていました。

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