顧問料などの収入は、全て実験や研究につぎ込んでいた。しかし、段々と「このまま研究を続けるのは無理だ」と思い始める。

 物理や化学、あいは物理化学を中心として、自宅で実験装置を製作して実験したり、母の大学の設備も使用したりして実験を続けていました。しかし、個人で負担するには、実験にかかる費用はあまりにも高額でした。お金が足りないがために納得いくレベルまで研究できず、色々と断念せざるを得なくなっていったのです。

 そこで僕が出した結論は、研究対象を物理や化学ではなく数学にシフトすることでした。理由は二つ。数学なら紙とペンと時間さえあれば研究ができます。また数学は、自然とは何か?という物心ついた頃からの僕の問いに対して、より本質的に迫るものであると思ったからです。会社の顧問等を全て辞め、もてる時間を最大限数学の研究に費やすことにしました。最小限の生活ができるよう、特許事務所の仕事だけ細々と続けていました。

 こうして、20代中盤から後半までのほとんどを、家にこもり、独り数学の研究に明け暮れたのです。

引きこもり数学の研究を続ける

 研究テーマは、「自然数の構造と性質について」。研究スタイルは、本や論文などは一切見ずに自力で考えるという、シンプルなものだった。

 簡単に言えば、素数の研究です。素数は無限に存在することの証明といった簡単なところから出発し、自然数の重合構造を見出したり、与えられた正の実数x以下にいくつ素数が在るのか、2より大きい全ての偶数は二つの素数の和の形で表されると予想を立て証明に取りかかったりと、とにかく様々なことを研究し、定式化したり証明したりしていきました。別にプロの数学の研究者を目指していたわけではありません。子供の頃からの自分の疑問を解決するためだけにやっていたのです。

 ニュートンの万有引力を数学的に示すことができるように、自然界の現象は基本的に数学的に説明できます。つまり、世の中のすべての根底には数学的構造や性質があると推察されます。こうして数学を探求し続け、10年近い研究期間を経てある程度自分で納得できるところまでいきました。

 コンピュータもAI(人工知能)もすべて根底は数学で、未来の世界も数学なくして語れません。他方、社会は間もなく安定期を終えてより不確実性が高く、ほとんど視界の無い乱気流の時代が訪れると感じていました。残念ながら自分のような人間さえも必要とする世の中が来てしまうのではないか、と。もしそんな社会が現実になれば可能な限りを尽くして世の役に立てればと思い、いつでも立ち上がれるようアイドリングしておこうと考え始めました。