本は読むものではなく、「見るもの」

 王貞治が通算756号のホームランで世界記録を達成した1977年。道脇氏は群馬県桐生市の祖父宅で誕生した。

道脇:今は亡き父は化学企業の研究所所長、母は東京外語大学物理学担当の助教授(現名誉教授)の理系一家です。また、祖父は群馬大学の名誉教授で前橋工科大学初代学長も務めました。祖父の伯父は錆びない金属や貝の付着を防止する船底用塗料などを発明した人物だったと聞いています。僕が理科や数学を好んだり、発明に没頭したりした理由の一つは、そうした先代の血が流れていたからだったと思います。

1歳頃、東京都の片田舎に引っ越す。母、姉と3人で壁の薄い長屋で過ごしたという。

 実は僕、就学前まで耳がよく聞こえませんでした。生まれたときヘソの緒が首に巻き付いていたため呼吸ができず、蘇生処置を受けなんとか一命を取り留めたそうです。これが原因かは分からないのですが、生まれたときから難聴を患っていました。

 そのため、文字が苦手でした。耳が聞こえないので発音の仕方がよく分からなかったんです。教授の息子と言うと、小さい頃からたくさん本を読んでいたと思われるかもしれませんが、僕は幼少期に本を読んだ記憶がありません。その代わり、ひたすら本を「見て」いました。挿絵や説明図が載っているページを、穴が開くほどずーっと長いこと眺めていたことを今でも覚えています。中でも母が持っていた図鑑や実験の本が好きでした。

 その後、数年かけて病院で治療し、聴力は徐々に聞こえるようになっていきました。